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佐藤健主演で、スケール感たっぷりなハイレベルVFXアクション『亜人』(01:48:15)配信期間:2022年12月1日8時5分〜12月8日10時10分

2021年まで連載されていた青年漫画を、本広克行監督が2017年に映画化。もう配信終了間近だが、1週間無料配信。

亜人 - 亜人 (映画) | 無料動画・見逃し配信を見るなら | ABEMA

26年前に死なない人間が世界で発見され、亜人と呼ばれるようになった日本。トラックにひかれた若き研修医の永井圭は、生き返ったことで国内3人目の亜人とされた。

しかし保護されたはずの永井は、死なないことを利用して過酷な人体実験を受けつづける。そんな永井を仲間にしようと、別の亜人が研究施設を襲撃してきたが……

 

監督は、かつて『踊る大捜査線』で日本の実写では珍しいスケール感と肩ひじはらないライト感を両立させ、近年はアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の総監督などでProductionI.Gと縁ができている。

主演の佐藤健は『仮面ライダー電王』の主演でブレイクし、『るろうに剣心』や『いぬやしき』で日本映画には珍しいレベルのVFX多用アクションを経験。

その両者の勢いがアクション映画としては良い意味で融合し、研究施設の構造をつかった脱出劇から高層ビルを崩壊させた廃墟での銃撃戦など、戦闘シーンの見どころは多い。

潜伏して日常生活をすごす場面でも、亜人の生みだす「幽霊」を相手にした訓練でVFXの見せ場をつくりだし、映像作品としては飽きさせなかった。

銃撃のマズルフラッシュや、血まみれのスプラッター描写も、日本映画としては破格のリアリティ。超人的なアクションで、ちゃんと建物が削られ壊れていく細かさも感心した。

 

ただ、残念ながらストーリー展開はまったく感心できなかった。

不死者になった主人公の、善良なようで冷酷なキャラクターは斬新で良い。しかしその他のキャラクターが記号的でいて不自然で、行動に納得しづらい。

特に物語の都合で動いているとしか思えないのが、亜人を組織して敵対する「佐藤」だ。主人公と同じように国家から非人道的なあつかいを受けた被害者として、人間の虐殺を楽しむ戯画的な殺人鬼になったまではいい。しかし襲撃の直後、マスコミの前で人体実験の被害をうったえ悲しむ演技をする意味がよくわからない。

理由はどうあれ虐殺した証拠をたっぷり残しているのに、自己の被害をうったえてもメディアで反撃されるとは思わない佐藤。ところが政府も、公開された人体実験の映像をCGあつかいする反論しかしない。頭が悪いキャラクターが騙しあっても展開に説得力や意外性がない。

そうして社会に同情をもとめた佐藤が、すぐ国家への攻撃を予告して実行する展開で、さらに意味がわからなくなる。何のために同情を求めて演技をしたのか。その場その場で社会を混沌させる行動をとるだけで一貫性がない。

佐藤の攻撃に日本の特殊部隊が反撃するわけだが、佐藤を拘束するため復活直前に銃で撃ちつづけるという作戦の頭の悪さにもおどろく。たとえば復活するために首がしまって窒息死する首輪をはめるなど、銃弾を消費しない方法があるだろう。当然のように仲間の亜人に邪魔されただけで失敗する。

その後の佐藤は、意見がわれた仲間の亜人を切り捨てるため、首を切ってドラム缶に入れる。数人の亜人が思いつくことをなぜ作中の政府関係者は思いつかなかったのか。そもそもどうやって政府は亜人を拘束して人体実験できていたのか。

 

終盤になるとさすがに亜人の設定を活用した頭脳戦を敵味方がしかけていく。その騙しあいはそれだけを見るとわるくない。しかし今度はそれができるならなぜ最初からやらなかったのかという疑問をおぼえる。

同じ佐藤健主演の超常アクションでも、映画『いぬやしき』は異星人に改造されてすぐ誰も知らない段階で暗躍をはじめるから、政府の行動が後手後手にまわっても違和感はなかった。

亜人が26年前に発見され、そして長期間人体実験をくりかえしたという根幹設定が足を引っぱっているのだ。映画版は2年前に亜人が発見されたと設定するべきだ。

また、攻略されたとはいえ撃ちつづければ亜人の復活を押しとどめられるという知見を、敵味方が忘れたように行動することも首をかしげる。それを用意した作戦として展開するなら説得力がないが、その場しのぎの手法として採用しないことも逆に説得力がない。

 

とにかく登場人物の行動が場当たり的で、その行動をおこなった意味がすぐ消えてしまう。そして誰も彼もが簡単に騙されて、きちんと計画をたてた行動をしない。

おそらく雑誌で連載していた原作は、その時その時の読者の興味をひくためインパクトのある描写を優先して、全体をとおした一貫性は捨てたのだろう。

しかし1話ずつ意識がリセットされる連載漫画ではなく、2時間以内に出来事を凝縮した長編映画にすると、もっと整合性を高めなければ説得力が欠ける。もっとキャラクターの言動に一貫性をもたせて観客に疑問をおぼえさせないようにするべきだろう。

たとえば佐藤が拘束される危険があるのに人体実験の犠牲を人前でアピールするような描写はやめて、インターネットに人体実験の映像を流す描写だけ残して、そのまま日本への復讐を宣言させればいい。佐藤を拘束しようとして失敗する展開をしたいなら、急いで拘束具をとりつけようとして別の亜人の攻撃で失敗する描写にすればいい。

 

きちんと予算と時間と技術をつかって映像に見どころがある日本映画は貴重なだけに、脚本の未整理が残念でしかたない。

逆にいえば、物語のツッコミどころを無視したアクション映画としては必見なのだが。