ハリウッド帰りの巨匠ポール・バーホーベン監督が2016年にフランスでつくった女性スリラー。ABEMAでは初無料配信だが、GYAO!でも複数回配信済み。
ゲーム会社の女社長ミシェルは、ある日に自宅で覆面男にレイプされる。しかしミシェルは病院に行っただけで警察へ通報はせず、いつものようにエログロ満載のゲーム制作を指示する。
老母や息子との関係も、周囲との関係も異様なミシェルには、隠すべき子供時代の出来事があった……
破滅的なようで成功者らしく慎重でもあるミシェル、その自立した女性というにも異質なキャラクターが印象的な映画ではあった。レイプ犯がおそってくる場面のサプライズなタイミングも、レイプ犯の正体をさぐる調査の肩すかしでいて意外な真相も、サスペンス映画として普通によくできている。
レイプ被害者として日常に不安を感じるようになりながら、ゲームではレイプで喜ぶような描写を指示して、現実でも性的快楽を求めて行動する。人間不信になって当然の人生を歩みながら人間関係を構築して利用する。異性や出産に傷つけられながら同性愛は試してもうまくいかない……ミシェルにまつわる個々の要素はレイプについての先入観を排したリアルな描写だ。
しかしレイプ犯の正体が意外と早く判明してからは、レディースコミックで典型的なレイプポルノっぽくなっていく。ミシェルがコントロールしているつもりのレイプ犯が予想以上に凶悪かと思えばそれほどでもなく、映画の通奏低音として流れるミシェルの父親のドラマも不明瞭な過去として終わる。
刺激的なレイプスリラーを、あえてロングショットを多用して冷え冷えとした雰囲気にしている珍しさはあった。このジャンルでさまざまな傑作佳作を出しつづけている韓国映画と正反対の方向性。
しかし残念ながら公開時に話題沸騰となったほどの新しさは感じられなかった。著名な批評家のなかでは、北村紗衣氏による否定的なレビューが、読んでいて一番納得できた。