1950年に発表された小説を原作とする、2015年の米国映画。すでにGYAO!でもABEMAでも複数回配信。
カメラマンを目指しながらデパート店員として働くテレーズは、クリスマスの店内で鉄道玩具に興味をもった女性を見かける。その女性キャロルは娘のために人形をさがしていたが目当てのものがなく、テレーズに自分の幼いころは何がほしかったかと質問して、鉄道玩具を購入していった。しかしテレーズはキャロルが手袋を忘れたことに気づき……
複数の物語を混ぜたひとつに男性同性愛エピソードがある映画『ポイズン』でデビューしたトッド・ヘインズが監督。
原作者は、初長編小説『見知らぬ乗客』がアルフレッド・ヒッチコック監督により映画化され、第3作『太陽がいっぱい』の映画化で世界的に知られた女流作家パトリシア・ハイスミス。
自他の体験をくみこんだ自伝的小説で、当時の偏見をのがれるためか偽名で発表され、同性愛コミュニティでロングセラーになったという。
映画としては当時の何気ない風景を何気なく再現した映像がまず目を引いた。背景の街並みは時代設定そのままに見える。これ見よがしにせず、演出の必然性にそって曇ったガラス越しや焦点があわないレンズでぼやけさせている。
ふたりのヒロインを演じるケイト・ブランシェットもルーニー・マーラも美しく、物語にそった自立した女性に感じさせる。特にルーニー・マーラは同年の『PAN ネバーランド、夢のはじまり』でゴールデンラズベリー最低助演女優賞にノミネートされたとは思えないほどコケティッシュで魅力的。どちらも上半身までは裸体を見せて、たがいをいつくしむようにセックスする。耽美だが退廃的ではない。
ヒロインのふたりとも結婚していたり言い寄る男性を拒否しなかったり、厳密にはレズビアンではなくバイセクシャルだろうか。あるいは同性愛者も異性愛者としてふるまうことが当然とされた時代だったのか。だからこそ、キャロルとテレーズがこわごわと関係をちぢめていくもどかしさがたまらない。
さらにキャロルは生まれた娘をめぐって夫と親権をあらそい、テレーズとの甘ったるい関係にも緊張感がある。
そして、原作者が有名なサスペンス作家だけあって、サプライズな展開もしっかりある。トリック自体は今では珍しくないが、ドラマの本筋が強固なのでで気をとられ、すっかり騙されてしまった。
全体としては好みのジャンルではないのだが、出来が良いので楽しめた。時代性もあわせて鑑賞したい作品だ。