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アニメーター育成事業「あにめたまご2023」で作られた短編アニメ4作品『NICO/AGONY』『WANDER BURABURA BAKKAMU』『もしメタ -もし女子高生がメタバースで巫女になったら-』『鶴が舞う夜に』配信期間:2023年3月31日~4月30日

新型コロナウイルスの蔓延を受けて、1ヶ月間の無料配信。配信時間は3時間以上あるが、質疑応答の時間が長く、各作品は短いのでサクッと見れる。

animenotane.jp

今回に事業に選定された会社はどれも新興なので、つくられた作品の完成度は良くも悪くも低めで、卒業制作や自主制作のような雰囲気がある。

しかし制作裏話をあわせれば興味深さが増すし、あくまで研修作品として見れば意外と一作品として完成されているともいえる。

 

NICO/AGONY』はミュージシャンの夫を支える妻が、夢の中で悪魔と契約してしまう。

約十分間の、特に技術力が高いわけでもない作品。しかし、いかにもテンプレートな夫の夢の犠牲になる女性を描くことで、うまく画面の緊張感をたもちつつ平凡な日常をていねいに映像化する研修要素を入れこんでいた。制作会社は女性が多く、参加したアニメーターも全員女性という制作背景とあわせてみると、耐える女性の描写に違う味わいも出てくる。

物語は平凡だが、悪魔と再会する演出のシュールさや、3DCGを活用した口から物を吐くネタのリフレインで完結した印象がきちんと生まれている。どちらも技術力のつたなさを誤魔化すアイデアではあるが。

 

『WANDER BURABURA BAKKAMU』は、おそらくは遠未来、動けない老人のかわりに女性一人と犬一匹が巨大なパイプをたどっていく。

質疑応答で制作会社がハイクオリティの映像に挑戦しつづけていると自認しているだけあって、リアルな頭身でイラストのようなタッチのキャラクターが緻密な背景を歩いていく情景は素晴らしい。手描きアニメーションの水飛沫もよくできている。スタッフクレジットを風景のなかに入れこんだり、状況にあわせて画面のアスペクト比を変化させたりと、パッケージングもすぐれている。

しかし約7分しかない尺のなかで事業に求められる要素を入れこむため、物語らしい物語はない。現代日本の延長のような風景から少しずつ未来技術らしい風景にもぐりこんでいくわけだが、展開される情景がゲームのようなイベント優先のギミックで、古臭いサイバーパンクと違いがなく、SF的な考証の基礎を感じさせない。

小人数スタッフで完成させるためかモデリングされたモノも少なく、登場人物は老人と女性と犬だけで街は殺風景。雰囲気はあるが、あくまで技術プロモーションのショートフィルムと見るべきか。

 

『もしメタ -もし女子高生がメタバースで巫女になったら-』はVR世界を楽しもうとした女子高生がVRではない縄文時代に来てしまう。

原作小説もTVアニメの十年以上前の『もしドラ』を今パロディするセンスが厳しいし、物語もVRMMOアニメがジャンルとして定着した現代からするとつらい。女子高生とVRに日本の古代をあわせる三題噺は、時代遅れのクールジャパンのよう。

手描きアニメ作品として映像の魅力も弱くて、全体をとおして低位安定していて、まさに育成用の毒にも薬にもならない作り。焼き魚を背びれからかぶりついたり、そこで骨が見えずにカマボコのようだったり、リアリティを無視した芝居が多いところも気になった。

質疑応答も、大ベテランのアベ正己が作画指導アドバイザーに入ってレイアウトや原画をくりかえしチェックした過程を見られたのは良かったが、そこで時間をとられて動画パートの育成目標が半分しか達成できず、制作進行の育成も遅延という結果になってしまった。十分に満たない作品なのに計画に到達できてないところが多すぎる。

 

 

『鶴が舞う夜に』は祖父の見た鶴を自分も見たいと田舎に行った少年の不思議な体験を描く。

こちらも手描きアニメだがレベルは高めで、複雑なカメラワークも多くて映像作品として見ごたえがあった。ていねいな日常の動作だけでなく、手をバタつかせた時のアニメならではの残像表現や、小屋を飛び出す時の手描き背景動画など、難しい作画にも挑戦している。その背景動画になったとたん描線の数を減らしたり、カメラが回り込む時に背景の速度が遅かったり、ところどころつたなさが見え隠れしているのも真面目な育成作品らしくて逆に好感をもてた。

やはり尺が短く登場人物は少なめだが、謎めいた美少年などキャラクターが明確なのでショートアニメとして楽しめる。ただ、主人公が頭身が高めなわりに精神年齢が幼いところが教育的なアニメのようだった。娯楽作品なら登場人物の精神年齢は設定年齢より3歳くらい上がいい。

キャラクターデザインと作画監督と指導をつとめたのが外国人というスタッフワークが目を引く。そのように海外出身スタッフが多いことや商業アニメ経験が少ない会社ということがあって、日本の手描きアニメで重要なタイムシートという動きのタイミング指示手法を排して、TakeCardなる指示書を活用したという。視聴している間は違和感がなく、面白い試みが成功していると思った。

また、2Dと3Dの融合を目指して、背景動画はラフ原画をもとにシンプルな3DCGの背景をつくって動かし、作画監督の修正をへて手描きアニメとして完成させたという。手描きに置きかえて線が減ったのなら、背景をCGで動かした方が良かったのでは、とは思った。