現地の妖精セルキー伝説をモチーフにした、アイルランドの手描きアニメ長編映画。無料配信が字幕と吹替で2週間。
少年ベンは父と妹シアーシャとともに灯台で家族生活をおくっているが、心を許せるのは大型犬のクーだけ。
シアーシャの誕生日を祝いに祖母がやってきてもベンは喜べない。言葉をしゃべれないシアーシャが産まれた日は、母が姿を消した日でもあった。
そしてシアーシャがなぜか夜の海辺で倒れているところを祖母が見つけ、ベン兄妹は安全な街で暮らすことになったが……
クライマックスを歌でもりあげる構成や、ファンタジー描写がどこまで現実か幻覚か判然としないところが、良い意味で日本的なアニメ映画。
キービジュアルなどで少女がピックアップされているので意外だったが、あくまで少年が主人公として、距離をとっていた妹に少しずつよりそっていく物語だ。
登場人物の多くは大切なものを失い、とりのこされているように精神が孤立していく。その失ったものを妖精たちファンタジーの住人が埋めあわせる……わけではない。
妖精たちは物語の住人として、過去に何があったかを証言し、主人公たちが記憶の底に沈めて隠していた感情に向きあわせる。終盤の「魔女のマカ」のエピソードから明らかだ。
理性で感情を隠すことが大人なのではない。きちんと自身の感情に向きあい、周囲につたえることこそが成長なのだ。そしてそれが心の余裕を生み、他者を許すことにつながる……
制作が大変な手描きアニメ映画で1時間半を超える上映時間も、日本のアニメ映画のようだ。ディズニー映画ですら、手描きアニメ時代はほとんど1時間半を超えない*1。
映像はシンプルな描線に柔らかな彩色をデジタルで重ねて、絵本が動いているかのような面白さがある。キャラクター作画だけでなく、背景もパースがつかない平面的な場面が多い。それでいて動きは柔らかくも立体的で、特に大型犬の頭の毛がゆれるアニメーションが気持ちいい。
吹替も声優としてキャリアのある芸能人が集まっているので、字幕でなくても違和感がない。日本語に訳出された歌も聞きごたえあった。
数々のアニメ映画賞にノミネートされ、受賞しただけのことはある必見の作品。