ふむめも@はてな

フリームービーメモ。GYAO!、YOUTUBE、バンダイチャンネル、ニコニコ動画、等々で公式に無料配信されているアニメや映画の情報や感想

蔓延する狂気は本当に生物兵器によるものなのか?『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』(01:43:02)配信期間:2022年10月20日~11月2日

やや古い1973年の米国映画。ゾンビ映画ジャンルを作りあげたジョージ・A・ロメロ監督が、生物兵器流出パニックを描く。字幕のみで一ヶ月無料配信。

gyao.yahoo.co.jp

米国の一軒家で、子供たちのすぐ近くで狂気の凶行がおこなわれる。すぐに公権力が介入して事件が沈静化すると思いきや、防護服の特殊部隊が街を封鎖しはじめる……

 

2010年に『クレイジーズ』としてリメイクされた古典的な生物兵器パニック映画。

ロメロ監督の初長編『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と世界的に影響を与えた代表作『ゾンビ』の中間くらいに作られた。

その『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』や『ゾンビ』と同じように、冒頭でパニックがはじまった状態で物語が進んでいく。同種のパニック映画のように崩壊する前の日常に時間をつかうような無駄がない。

他にも襲いくる感染者や冷徹な国家など、さまざまな描写がゾンビ映画と似ているが、設定レベルで充分な差別化はできている。

 

現在から見ても独特なのが、感染者と非感染者の境界線がはっきりしないこと。

低予算であるためか、ゾンビ映画のような皮膚を土気色にする手間すらかけず、外見は非感染者とまったく区別できない。

行動も、たしかに冒頭などで凶行にはしる感染者もいるが、大半の感染者は知能が退行して奇行をおこなうだけで、無防備に出ていったり部屋に黙って閉じこめられたりもする。

銃撃戦が展開されるのは、感染者を隔離し排除しようとする防護服の軍隊と、感染者として排除されることに抵抗する非感染者のあいだばかり。感染者の銃撃や襲撃らしき場面もあるが、感染したことを必ずしも劇中で確認しておらず、異常な状況で狂気に飲みこまれただけにも見える。

感染者と一般人と公権力の視点を等分に描いていることも独特だ。生物兵器を流出させた国家の問題はあるが、その収拾をつけるため研究者と軍人はそれぞれの立場で奮闘し、対立もする。防護服を着た現場の隊員からも、普通の人間に見える感染者を排除することに精神がたえられない者が出てくる。

最終的に治療方法が発見されたかのような場面があり、それは「発見者」が感染者と「混同」されて「挫折」する。しかしその「発見」にしても「意味不明」とあつかわれる描写があるので、実は「発見」も「感染」による「幻覚」だった可能性も感じられた。

 

映像も意外と見どころは多い。

あくまで低予算で、銃撃戦の流血などは当時としても安っぽいが、一軒家を燃やしたり防護服の隊員を十人近く画面に出したり、数千人の街を制圧する物語のスケールは表現できている。

何より面白いのが細かいカット割り。台詞の一言一言でカットを割り、戦闘でもワンアクションですぐカットを割る。ロメロ監督のCM出身というプロフィールを考えても、ここまでカット割りが細かい映画は現代にいたるまで滅多に見ない。

おかげで予算が少ない技術も足りない画面をうまくごまかせているし、遅々として事態が進まない物語なのに映像の緊張感がとぎれない。群像劇的な多視点の物語にも合っている。ドキュメンタリのような主観映像や俯瞰映像も多いので、カットが寸断されても状況を理解しやすい。