娯楽性の高い戦車映画として好事家に絶賛された最新ロシア映画。もう終了間近だが、初無料配信が字幕のみで一ヶ月。
孤立した激戦の果てに、捕虜となったロシア兵。脱出を試みる彼の前に、予想外のかたちで戦車があらわれた……
1989年の国家の破綻と制度の崩壊から経済的にたちなおり、2005年ごろから大作戦争映画をつくる余裕が生まれたロシア。
それでも良くも悪くも過去の文学性の香りを残すか、ハリウッド模倣にとどまるような作品が多かった。
しかし2019年、ついに正面から堂々とエンタメ性を出した戦争映画をつくり、娯楽作品として絶賛された。本国でも日本でもヒットを飛ばし、3時間を超えるディレクターズカット版が上映されるほど。
こちらは見せ場をしぼりこんだ、2時間未満の通常版となっている。
舞台と場所を変えながら、さまざまな戦車の魅力を描いていく。
小さな木造家屋に隠れたり壊したりしたかと思えば、ひょんなことから始まった整備で機械としての戦車を見せたりと、上映時間いっぱい使って戦車と搭乗者を描ききった。
最初から最後まで戦場に近い状況にありながら、展開に起伏があって息切れしない。ドイツ兵とソ連兵の会話で必ず通訳をはさむリアリズムが、男臭い物語に女性を登場させる必然性にむすびついたりと、無駄がない。
他にも制限したシチュエーションのなかで、娯楽としての多様な見せ場を用意している。全裸の水浴びで女性が「キャッ♡」と叫ぶシーンまである。嘘ではない。
戦車戦はスローモーション演出が目立ったり、全体的にゲームのようなCG臭さがあったが、地形を活用した敵味方の知略を楽しませる物語には合っている。
実物大の戦車や広大なオープンセットをつかうことで兵器の実在感もあり、場面に応じた重々しさはちゃんとあった。
予算をしっかり使った隙のない娯楽大作でいて、意外と全体のバランスもいい。
公開当時の絶賛も納得の逸品だ。