1955年に書かれた古典推理小説を原作として、2017年に韓国が映画化。もう終了間近だが、字幕のみで約一ヶ月の無料配信。
石造りの豪壮な邸宅で事件が発生。一本の指しか見つからない遺体なき殺人事件として、裁判がはじまる。
事件の数年前、困っていた女性を手品師が助け、やがて協力しあう関係になっていく。しかし女性には秘密があった。
やがて終わったはずの植民地時代の陰謀劇を背景として、因縁のなかで人が殺されていく……
原題の『歯と爪』は慣用句で、「手段をつくして」といった意味。
手品師のドラマと法廷劇をカットバックする手法は原作のままらしい。そこに植民地時代の陰謀を足すことで、現代の科学捜査には通用しない策略を成立させつつ、韓国らしい情念に満ちたサスペンスを展開する。偽札という史実の大日本帝国がつかった小道具は、驚いたことに原作通りらしく、翻案した時代選択の見事さに感心した。
原作は袋とじで解決編を隠す仕掛けをしているらしいが、トリック自体は現在のミステリ愛好家なら見当がつくだろうし、オリジナルの韓国映画ミステリでも存在する*1。ふたつの出来事が同時進行するカットバックを利用した「叙述トリック」も、「被疑者」を「誤解」させるシンプルさなので、やはり予想することは難しくない。
しかし後半で手品師と裁判の関係がはっきりしてからも、複雑な人間関係がからみあうドラマとして楽しめる。どのような殺人事件が発生し、誰がどのような秘密を隠していたのか、完全に予想することはできないだろう。
現代の韓国映画としてはアクションも流血もさほど力が入っていないが、植民地から解放されたばかりで連合軍に保護されている牧歌的な時代らしさがあった。字幕が入るくらい日本語の演技はつたないが、この時代ならば朝鮮での生活が長かったり朝鮮語が母語であったと思えばいいかもしれない。
市街地のオープンセットや服飾など、既存のものを流用しているとしても時代性の再現も入念で見ごたえある。さらに変わりつづける天候で、すぎさった時間の長さと大切さが実感できた。
良くも悪くも娯楽性と社会性を押し出しがちな現代の韓国映画において、珍しく2時間に満たない尺で堅実にまとめたサスペンスドラマとして貴重だ。