『メッセージ』等のSF作品に移行しているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の、カナダ時代の2009年作品。2週間無料配信。
アンチフェミニストでミソジニーな青年がいた。男の研究を利用するだけだと女を見くだして、男女同権に反発するように銃をとる。
そのころ、大都市モントリオールの理工科大学で、女子学生が偏見により就職の壁につきあたっていた。男子学生にノートを貸すくらい優秀なのに……
1989年に発生した銃乱射事件を題材に、架空の登場人物におきかえて、モノクロ映像で淡々と事件を映していく。
ヴィルヌーヴ監督は、GYAO!では『ボーダーライン』や『灼熱の魂』といった社会派アクションが何度か配信。
それら後年の作品で発展させた銃撃描写の、リアリティあふれる原型がたしかめられる。ハリウッド映画のような派手さはなく、淡々と一発ずつ撃って、無機物も有機物も平等に穴があき、血はゆっくりと流れていく。
BGMはほとんどつかわず、劇中に流れる音楽を環境音として利用。大学構内のコピー機の機械音や、無機質な銃撃の破裂音だけが乾いて響く。
別室の虐殺に気づかず若者たちが平和にすごしている対比表現や、その大学そのものが雪に閉ざされて助けがこないもどかしさなど、構内の広さと密室の惨劇を両立している演出手腕もすばらしい。
途中でノートを借りた男子学生の視点で進んでいた物語は、「排ガス」をつかった「自殺」で「幕を下ろした」。
そこから女子学生の視点で、ささいな描写の背後に何が起きていたのかを見せていく。どんでん返しというほどではない小さな謎解きだが、『灼熱の魂』や『プリズナーズ』で見せたミステリ的な技法が、この時点で完成されていた。
技術者としてバリバリ働きながら、いまだ恐怖にとらわれている女性をとおして、ミソジニーの罪深さも実感される。
1時間半以内と短くて見やすく、それでいて社会派らしい重みも、世界の見え方が一変する恐怖も描かれている。佳作。