『パラサイト 半地下の家族』が世界的に絶賛されたポンジュノ監督の、外国人俳優を主演にむかえてチェコで撮影した2013年作品。たしか二度目の無料配信が、字幕と吹替で一ヶ月。
地球温暖化を止めるための技術で、全地球が凍結して18年。人類が唯一生き残っているとされる列車が、雪に閉ざされた世界をめぐっていた。
その過酷な生活をしいられていた最後尾車両で、何度目かの反乱計画が進行。そして列車が新年をむかえる時、わずかな隙をねらって決起がはじまった……
未解決事件の刑事ドラマ『殺人の追憶』や小型怪獣と戦うファミリー映画『グムエル』など、作品ごとにジャンルを変えてきたポンジュノ監督。
今作はフランスのSF漫画を原作に、雪に閉ざされた車両内における血みどろの革命劇を描いていく。
この種の作品で、すでに何度か革命が挫折している設定まではともかく、冒頭から主人公の反乱計画が進行していることが珍しい。普通は圧政の恐怖をじっくり描いてから革命心を育てていくドラマを前半で描くところだろう。
ポストアポカリプスの経緯はニュース音声で、ディストピアの恐怖は非人間的な食料と子供の暴力的な連行などで手早く見せる。列車の構造は反乱で先頭に進みながら描写して、列車ごとに何を目標としているのかも説明。
列車の来歴は裕福な子供向けの教室で授業形式で説明される*1。『パラサイト』の「リスペクト!」を思わせる教師と生徒のやりとりは滑稽で、しかしキッチュな怖ろしさもある。
主人公の心底にある反乱の動機は、そうした反乱のなかに伏線をちりばめて、もうひとりの主人公との衝突で暴露される。
はげしい反乱劇のわりに意外とテンポがゆるやかなドラマだが、設定説明で無駄な時間をとらず、事態がよどみなく進行しつづける。オリジナリティの高いSF映画にありがちな、設定を観客に理解してもらうためだけの時間を見事に回避していた。
多様な人種を集めたスケール感はハリウッド映画のようだが、韓国映画らしい個性も良い意味で感じられる。
美術セットや俳優の汚しと、派手で安っぽい富裕層の色彩。浅い被写界深度で背景をぼかし、俳優の表情をクローズアップで浮かびあがらせる。
何より、銃弾が消費された状況設定で、敵味方ともに鈍器や斧のような痛みを感じさせる武器で戦うのがすごい。2010年代の韓国映画が見せるスタイリッシュさは無いが、2000年代の韓国映画を思い出させる一撃の重みと血しぶきの残酷さが印象的だ。
VFXも韓国や第三者国の会社が中心。列車の外観や雪景色は明らかに3DCGだが、映画を成立させるクオリティは充分ある。
良くも悪くもポンジュノ作品らしい個性は薄めだが、ポストアポカリプスSFとして定番をうまくまとめているし、終盤のどんでん返しもふくめて格差社会への皮肉も味わい深い。
キャプテン・アメリカで知られるクリス・エヴァンスと、韓国を代表する名優ソンガンホのかけあいも見どころ。ちょうど寒い季節だし、見て損はない。