2005年のハディサ事件を再現した、2007年のイギリス映画。原題は“BATTLE FOR HADITHA”。
邦題だけを聞くとアカデミー賞作品の便乗商品と感じてしまうが、2007年にサン・セバスチャン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した立派な作品である。
公開年を見てのとおり、2008年の『ハート・ロッカー』よりも前の作品であり、タイトルやパッケージデザインがパクリなのは日本の配給会社の問題である。
劇中に軍用車両が爆破される展開があり、この種のパッケージとしては珍しく詐欺ではないのだが……
強敵がいなくなったアメリカ軍にはたるんだ空気が流れていた。イラク住民は抑圧された生活に嫌気がさして、アメリカ軍もアルカイダも消えてほしいと思っている。そこに元イラク兵の男が道に爆弾をしかけて、アメリカ軍車両を爆破。米軍は反撃に出て、つぎつぎに住民を虐殺していく……
約1時間もつづく虐殺の、出口のなさが息苦しい。あくまで原因は衝突をあおった元イラク兵だが、その策略にあっさりひっかかって過剰防衛してしまった米軍が問題ということは間違いない。車両爆破テロとは別個に、アメリカ軍が平和の願いをテロと誤認して爆撃する皮肉な伏線もある。
さらに結末でテロが成功した理由が明かされるとともに、アメリカ軍が現地にまったく歓迎されていないこと、その問題が拡大していくだろう絶望がわかる。
作品そのものは真面目で、どこまでも冷静なタッチで惨劇を描いている。三つの視点で客観的に戦場を描いているため、主人公個人のドラマだった『ハート・ロッカー』より好む人も多いようだ。
登場人物がカメラ目線だったり、デジタルカメラらしい画質だったり、映像はフェイクドキュメンタリーに似た印象もある。けして予算をかけた大作ではないが、リアルな戦場を再現した映画として価値は高い。
問題点として、ひとつの事件を描いているだけなのでストーリーは弱い。しかし映像だけで抒情性をつくりだしており、言葉にできない感情をゆりうごかす力はあった。
批判的に描いているのは、テロリストの指導者やアメリカ大統領といった責任ある指導者のみ。予想以上のアメリカ軍の行動にテロリストが苦しんだり、アメリカ軍人の良心も映したり、虐殺に手をそめた者にも映画はよりそっていく。夜のイラクを両者がすれちがう場面は、あまりに皮肉で、むなしく、かなしい。