ディザスター映画『白頭山大噴火』のキム・ビョンウ監督脚本による、2013年の韓国映画。終了間近だが、初無料配信が一か月。
ラジオ番組で聴視者からの電話をさばくアナウンサーがいた。貧困層の苦しみをうったえる男の電話がなぜか切断できず、止めようとしてもしゃべりつづける。
そしてその電話が予告したとおり、眼下の橋が爆破された。
本当のテロリストと気づいたアナウンサーは、その会話を独占して視聴率アップをねらいつつ、TV番組のキャスターへの復帰を上司にもちかけるが……
社会の犠牲になったと主張するテロリストを狂的に描いて、対応する主人公もゲスな欲望にまみれている。しかしテロリストとは交渉しないと主張する政府や警察の、まったく市民の犠牲をいとわない態度が権力の酷薄さを実感させ、テロリストと主人公の愚かで感情的な行動が理解できてしまう。
テロリストの会話や警察が出した情報から犯人像に少しずつ肉薄していくミステリもよくできているし、主人公の視点で見ているからこそ誰も信用できないサスペンスも高まっていく。
低予算映画や舞台劇でも可能そうな、ひとりの男が一室で会話しつづける物語。おそらく同じ脚本をつかって、良い俳優と監督をそろえれば、日本映画でも制作できるだろう。
しかし窓の外の橋が爆破されるVFXのハイクオリティぶりにはじまり、外部の取材風景やスタジオでうつる他局の番組など、見ごたえたっぷり。情景が変化しつづけて、映像作品として飽きさせない。
韓国映画らしく娯楽のため全力投球して、手を抜いたと感じさせる場面がいっさいない。建物内とモニター映像だけなのに、とんでもない情景を展開していき、最終的に大作映画を見た満足感があった。
ブラックな展開の後味の悪さも、数少ない輝ける人の選択も印象的。
よく練られたコンセプトの映画として傑作といっていいだろう。
たぶん、もう少し前向きな物語であったほうが娯楽としては正解なのだろうが、風刺劇としてはこれで良いのだ。