カルト的な人気を持つ白石晃士監督。あえてドキュメンタリー形式ホラーでリアリティを放棄した、その独特な作風が炸裂する一本。
始まりは、大量殺人。その事件を生きのこった青年を追いながら、監督は彼が何を考えているのかを知ろうとする。
しかし青年は自身を神の伝道者と位置づけながら、その日その日をしのぐネットカフェ難民でしかなかった……
映像ページでのサムネイルには女性が映っているが、実際に展開されるのは、取材者と被写体の男同士の不思議な関係。
白石監督が本人役で出演し、江野祥平という青年を取材する中盤までは、超常ホラーらしさはまったくない。
経済的な苦しさを描きながら、そうした弱者の愚かしさもていねいに映している。社会の犠牲者であることはたしかだが、情報を集めて経験を積む機会が失われているため、その場その場の利益に飛びつくしかないのだ。
大量殺人を神のみちびきによるものと主張しているのも、苦しい生活から逃避するために妄想にすがったように見える。
もし白石監督が『闇金ウシジマくん』を実写化したなら、すさまじい傑作が誕生するだろう。
もちろん、クライマックスからはっきりとホラーとしての真相が明らかにされていく。白石監督がつくったVFXはいかにも低予算で、リアリティのかけらもないが、物語そのものがリアリティを超越していくので問題はない。
エンディングとオチにいたっては、作品がフィクションであることをこのうえなくハッキリ映像化している。
途中でホラーの巨匠、黒沢清監督も白石監督のコネでカメオ出演したりと、ホラー映画ファン向けのサービスもしっかりある。
ひらきなおった低予算さえ許せれば、コンセプトのしっかりした娯楽作品だ。