湯本香樹実の同名小説を黒沢清が2015年に映画化した。もう終了間近だが、初無料配信が一ヶ月。
子供相手にピアノを教える女性。冷え冷えとした一人暮らしの毎日に、ふいに夫があらわれる。夫は自身がもう死んでいると告げ、女性は夫とともに出会いをめぐる旅をする……
織田作之助賞候補になった2009年の小説を、『CURE』『回路』で知られる黒沢清が映像化。カンヌ映画祭のある視点部門で監督賞を受けた。
オムニバス調に旅先でさまざまな家族のドラマが描かれる。地味で動きの少ない題材に、やや長い2時間超という上映時間でも、「区切り」がついているので見やすい。
夫婦や親子という関係を全肯定せず、緊張感をもって描きつづけているところもいい。甘ったるい感傷はなく、罪を安易に許したりもしない。
何より印象的なのは、いかにもホラー映画の監督らしい演出。VFXにたよらず照明の明滅で消えては現れる死人たち。廃墟を飾りこむ美術の技術力も高い。
そうして人情的なゴーストストーリーらしいストーリーを、暗く恐るべき出来事と印象づける。それが過去を記憶しつつ決別することの大切さも感じさせた。