「バッカス」と呼ばれる「立ちんぼ」を題材にした、2017年の韓国映画。老人同士とはいえ性的描写が多いので、要ログインのR15。字幕のみの初無料配信が約一ヶ月。
死ぬほど上手と噂される街角の娼婦ソヨンが、淋病にかかった。その治療に行った病院で、傷害事件に出くわし、ひとりの子供を保護する。
その子供をつれかえり、トランス女性の大家や義足のフィギュア制作者とともに生活をおくるソヨンだが、古なじみと再会して……
ペ・ヨンジュンのエロティック時代劇『スキャンダル』を監督したイ・ジェヨンの、監督脚本作品。
韓国社会で底辺にくらさざるをえない人々と、未来に希望をもてない老人たちの、苦しみに満ちた結末を描く。
全体としてはジャンル作品をオーソドックスにまとめていて、意外な展開や突出した見どころはない。
しかし突然の流血沙汰から交通事故(未遂)まで、序盤からさすがの韓国映画と思わされる。老娼婦同士のいざこざ、さまざまな”死”のシチュエーションまで事態が変転しつづけて飽きさせない。
貧しい下町と遠景の高層ビルの対比や、美しい観光地のような撮影も見事だ。
もちろん安易にマイノリティを美化しないし、マイノリティ同士の差別も描く。
ソヨンにインタビューを試みるドキュメンタリー作家を利用して「バッカス」について作中で自然に説明し、外国の観客にも理解しやすい。
建前を語るドキュメンタリー作家の姿をとおして、この映画そのものが実在の娼婦たちを娯楽のため消費している問題にも留意する。
そして瓶拾いだけは嫌だとソヨンがインタビューに答えたずっと後で、ソヨンより老いて瓶拾いをしている老女が街角をとおりすぎる。
在韓米軍やその子供たち、フィリピンやベトナムに多数いる韓国人とのミックスにも言及。
こうしたジャンルでやるべきことをきちんとやりきっていて、外国の観客から見ても好感をもてた。