2017年度のアカデミー賞作品。要ログインのR15で、字幕と吹替で十日間の無料配信。
貧しい母子家庭で育ち、学校では「オカマ」と差別される少年シャロン。しかし同級生にケヴィンというかけがえのない存在がいた……
マイノリティ属性を複合させた作品は、よくインターネットなどで賞狙いと皮肉られがち。しかしきちんとドラマとして構築したことで、高い評価を受ける作品として成立した。
映画製作者が栄誉を求めて弱者を利用するのではなく、弱者の黒人が当事者として物語をつくったのが良かったのだろう。
自身も黒人のバリー・ジェンキンス監督は、これが商業長編映画の2作目。1作目も高い評価を受けながら次作を発表するまで映像以外の仕事もしながら8年かかってしまったという。
映画の特色は、学校から街の生活まで、登場人物の多くが黒人であること。白人は外の街の群集や名も無き警官として、ほんの少し登場するだけ。アメリカが白人だけの国ではないと視覚的によくわかる。
もちろん黒人が貧しかったり麻薬に汚染されている背景に差別的な社会構造はあるだろうが、まず黒人も当たり前の人間として存在するということを高い説得力で表現した。
イジメ問題は黒人同士の関係性で発生するし、麻薬問題はシャロンをイジメから救った好人物すら手を染めている。それがやるせなくも観客の先入観をくつがえすドラマとして展開していく。
特に黒人学生ばかりの学校風景が印象的だ。同じ黒人でも肌の色から髪質まで異なることで、「黒人」という属性だけでは何も決まらない、ひとりひとり違う存在なのだと理解できる。
さまざまな暴力や犯罪を描きながらも、落ちついた切ないラブストーリーとして静かに物語が進んでいく。
さまざまな人物の複雑な側面を見せながら、許されたいと願う傷ついた人々を優しく許す……そんな心地良さのある作品だった。