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あのヒッチコック作品を進化させた多重人格サスペンス『アイデンティティー』(01:30:02)配信期間:2022年11月27日~12月10日

近年では『フォードvsフェラーリ』が絶賛されたジェームズ・マンゴールド監督の2003年作品。字幕のみの配信が2週間。

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死刑執行がせまっている連続殺人犯について、判決に異議がとなえられる。殺人をおかしたことは事実だが、精神面で考慮するべき要素があるというのだ。

豪雨で孤立したモーテルに、さまざまなキャラクターが逃げこんでくる。誰もが傷つき、誰もが怪しい。そして惨劇がはじまる。

このふたつの物語は、いったいどのような関係があるのか……

 

若手脚本家マイケル・クーニーの脚本を製作のキャシー・コンラッドが買いとり、夫のジェームズが監督することになったサイコサスペンス。

雨中に孤立したモーテルという舞台も、標的のひとりが大金をもった女性であることも、最初の被害者が「シャワーカーテンごし」に殺されることも、すべてヒッチコックの歴史的作品『サイコ』を思わせる。

実際に監督もヒッチコック作品の『裏窓』などにオーディオコメンタリーで言及しているし、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』のようにひとりひとり死んでいく展開は作中の会話でも言及される。

 

しかしパロディやオマージュに満ちた作品は新鮮味に欠けかねないところを、サスペンスとして惨劇がはじまる前から観客を退屈させないよう工夫をこらしている。

特に良いのが、モーテルに逃げこんでくるキャラクターを説明する序盤の構成だ。まず重傷の女性がかつぎこまれるショッキングで目を引き、そこから物事の結果と原因をくりかえし前後させて、細かな謎解きのカタルシスで興味をひきつつ、登場する人間の関係性を印象づけることに成功している。

 

この映画はどんでん返しの意外性で知られるが、多重人格設定が早々に明らかにされているので、モーテルの惨劇が「脳内」の「人格同士」の衝突ということは予想できる人も多いだろう。

中盤でモーテルを脱出した時、「小川の向こう」に見える「建物」へ入ると「元のモーテル」だった、という展開でほぼ真相が明らかだ。

どちらかといえば、そうした「架空性」の高い舞台だからこそ、「さまざま」な犯罪者が「なりすまし」ていることに説得力をもたらしていることが特色だ。

だから「子供」がすべてを「誘導」した「元凶」という普通なら説得力を出しづらい驚愕の真相も、犯人の「脳内」の出来事と思えば不可能ではなくなる、というわけだ。

これはヒッチコックの『サイコ』の真相を「モーテル」全体に「拡張」したがゆえの意外性と説得力だ。ただの模倣で終わらせず、進化させたからこそ、オマージュ元と同じくらいの衝撃を観客にあたえることができている。

ひとりの刑事にだけ他にも人を殺していると告白した殺人者の真意とは?『暗数殺人』(01:50:24)配信期間:2022年11月3日~12月2日

実話にもとづくという2018年の韓国映画。日本では2020年に劇場公開された。字幕と吹替で初無料配信が一ヶ月。

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麻薬捜査をする刑事に、誰かにたのまれて死体をはこんだと告白した男が逮捕される。男自身が恋人を殺して死体を遺棄したらしい。

しかし男は裁判で有罪になった後、刑事にだけ他にも7人殺しているとうちあける。刑事は殺人課に移り、男の告白にしたがって捜査をはじめるが死体が見つからない……

 

キム・テギュン監督はこれが初長編映画。製作総指揮で共同脚本のクァク・キョンテクは『タイフーン』等でゼロ年代から活躍するベテラン。

映画としては連続殺人をあつかいながら、韓国映画にしては地味で、陰惨な場面が少ない。死体を掘り起こす場面は大規模だが、日本の刑事ドラマでも予算がつけば可能だろう。

 

しかし虚実がはっきりしない男の言葉にふりまわされながら、じりじりと事実に肉薄していく刑事のドラマとして緊張感がつづく。

兄弟から借りた金を男に贈って告白をひきだす刑事を見ると、ただ刑事にたかるため存在しない事件を語っているのかもしれない。警察に勇み足をさせて確定した判決をとりけさせるつもりかもしれない。あるいは『殺人の告白』のような真相なのかもしれないとも思わせる。

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事件の真相がわからないだけでなく刑事自身の立場まで危機にさらされていく。それでも男の言葉から嘘の法則を見いだし、物証を見つけようとする刑事の根気づよさが渋い。

 

映画はひとつの結末にたどりつくが、実話にもとづいていることもあり、不確定なところが残りつづける。

それが現実の不安感として観客に残り、それでも真実をつかもうと歩みつづける大切さを実感させる。

ビン・ラディン暗殺のその瞬間まで『ゼロ・ダーク・サーティ』(02:37:14)配信期間:2022年11月6日~11月19日

2012年に公開された、『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督による実話映画。何度目かの無料配信が字幕のみで2週間。

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CIAの若手女性捜査官マヤは、911同時多発テロ以降の情報収集に従事していた。くりかえされる拷問と懐柔の日々で、遅々としながら人間関係をたぐりよせていく。そしてアブ・アフメドという連絡役の名前が浮かびあがるが、事態は意外な展開を見せる……

 

2011年5月におこなわれた暗殺活動を映像化して、2012年12月に公開。ベテラン監督による現代の米国映画としては驚くべき早撮りだ。

内容も長尺なので予算をつかった大作かと思いきや、断続的にくりかえされる拷問と会議に、時々テロの再現映像がインサートされるだけ。

大半のカットが手持ちカメラらしく画面がゆれつづけ、一貫して安っぽいがゆえ、逆にドキュメンタリらしい現実感があった。

拷問映画としてもテロ映画としてもそつがないし、少しずつ情報を集めていくなかで意外な展開もあったりする。拷問の事実を否定するバラク・オバマ大統領を横目にCIAが拷問で情報を集めていく描写など、どの立場から見ても皮肉めいている。

そして終盤の特殊部隊による暗殺劇はじっくり予算をつかって見ごたえ充分。圧倒的な立場なはずの米国は、いくつもの失敗をかさねるがリカバリーをすぐにすませ、仕事のように暗殺を遂行する。

 

主人公はテロに対する報復の正当性に悩んだりしないし、米国内のテロ対応を重視する人物も他国への介入を道義的に悩んだりしない。

だが、よく見るとCIAは拷問よりも懐柔によって重要な情報を確保している。2年後に公開されたスパイ映画『誰よりも狙われた男』の拷問に対する主人公側の見解を思い出すところだ。

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拷問して自白させたつもりでも、追いつめられた無実の人間が拷問者を満足させる嘘をついただけかもしれない。そうした最新の知見が反映されたリアルな描写だ。

一方で『ゼロ・ダーク・サーティ』は、きちんとした立場から拷問を批判する見解が描かれたりしない。CIAの現場の奮闘にどこまでもよりそい、その成果をたたえる作りになっている。そもそも作戦を主導した主人公を架空の若い女性にしたことも、共感させる工夫だろう。

基本的に冷徹な語り口なので、プロパガンダのようにCIAを賞賛しすぎる嫌味はないが、あくまで一種のよくできた再現ドラマとして観るべきなのかもしれない。