2014年に公開された英米独の合作映画。ジョン・ル・カレの小説を原作に、ドイツを舞台としたスパイ合戦が描かれる。
2001年9月11日の同時多発テロの教訓から、ドイツの都市ハンブルグにおいて各国の諜報活動が活発化していた。
ドイツ諜報組織の末端チームで部下をひきいるバッハマンは、密入国したイスラム過激派らしき青年を追う。
関係者の即座の逮捕を求める上層部やCIAに反対して、バッハマンは銀行家や弁護士、そして支援団体へと芋づる式に接触していく。
スパイ映画としては静かな、恐怖よりも信頼を重視する、落ちついた佳作だった。
これが遺作*1となったフィリップ・シーモア・ホフマンが主人公の諜報員を演じて、衰えた肉体*2に鞭を打ちながら荒事にも手を染める。
しかしバッハマンはテロ対策チームをひきいる立場として、荒事はできるだけ避ける。テロ関係者も安易に捕まえたりせず、できるだけ仲間にひきいれ、より深くテロ組織にくさびを打ちこもうとする。
中国の古典に「巧緻は拙速に如かず」という言葉がある。「できあがりがいくら立派でも遅いのは、できがまずくても速いのに及ばない」という意味だ。しかしこれはもともと時間制限が厳しい国家試験の教訓。長期的な視野に立ち、永続的な世界の安定を目指すべき国家の諜報員は、「拙速は巧緻に如かず」なのだ。
あえていうなら、放送時間と同期して24時間以内に事件を解決するTVドラマ『24 -TWENTY FOUR -』のアンチ的な作品だ。
方針を決める会議において、それを象徴する場面がある。
拷問して自白させたつもりでも、追いつめられた無実の人間が拷問者を満足させる嘘をついただけかもしれない。そうした最新の知見が反映されたリアルな描写だ。
本筋に入っても、バッハマンの方針はどこまでも地味で、対外的な会議や折衝がくりかえされる。72時間という期限を切られて、ついに拉致監禁という手段にうったえるが、それでも相手を懐柔させるという方針は変えない。
どのような相手であっても良心をもっていることを信じて、説得をつづける。そんな理想主義的でいて長期的には現実主義的なスパイの信念が、ヨーロッパ映画らしい静謐な映像でつづられる。