2012年に公開された、『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督による実話映画。何度目かの無料配信が字幕のみで2週間。
CIAの若手女性捜査官マヤは、911同時多発テロ以降の情報収集に従事していた。くりかえされる拷問と懐柔の日々で、遅々としながら人間関係をたぐりよせていく。そしてアブ・アフメドという連絡役の名前が浮かびあがるが、事態は意外な展開を見せる……
2011年5月におこなわれた暗殺活動を映像化して、2012年12月に公開。ベテラン監督による現代の米国映画としては驚くべき早撮りだ。
内容も長尺なので予算をつかった大作かと思いきや、断続的にくりかえされる拷問と会議に、時々テロの再現映像がインサートされるだけ。
大半のカットが手持ちカメラらしく画面がゆれつづけ、一貫して安っぽいがゆえ、逆にドキュメンタリらしい現実感があった。
拷問映画としてもテロ映画としてもそつがないし、少しずつ情報を集めていくなかで意外な展開もあったりする。拷問の事実を否定するバラク・オバマ大統領を横目にCIAが拷問で情報を集めていく描写など、どの立場から見ても皮肉めいている。
そして終盤の特殊部隊による暗殺劇はじっくり予算をつかって見ごたえ充分。圧倒的な立場なはずの米国は、いくつもの失敗をかさねるがリカバリーをすぐにすませ、仕事のように暗殺を遂行する。
主人公はテロに対する報復の正当性に悩んだりしないし、米国内のテロ対応を重視する人物も他国への介入を道義的に悩んだりしない。
だが、よく見るとCIAは拷問よりも懐柔によって重要な情報を確保している。2年後に公開されたスパイ映画『誰よりも狙われた男』の拷問に対する主人公側の見解を思い出すところだ。
拷問して自白させたつもりでも、追いつめられた無実の人間が拷問者を満足させる嘘をついただけかもしれない。そうした最新の知見が反映されたリアルな描写だ。
一方で『ゼロ・ダーク・サーティ』は、きちんとした立場から拷問を批判する見解が描かれたりしない。CIAの現場の奮闘にどこまでもよりそい、その成果をたたえる作りになっている。そもそも作戦を主導した主人公を架空の若い女性にしたことも、共感させる工夫だろう。
基本的に冷徹な語り口なので、プロパガンダのようにCIAを賞賛しすぎる嫌味はないが、あくまで一種のよくできた再現ドラマとして観るべきなのかもしれない。