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拙速よりも巧緻たらんとする、誠実な公務員らしい諜報組織を描く『誰よりも狙われた男』(02:01:36)配信期間:2017年9月29日~2017年10月28日

2014年に公開された英米独の合作映画。ジョン・ル・カレの小説を原作に、ドイツを舞台としたスパイ合戦が描かれる。

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2001年9月11日の同時多発テロの教訓から、ドイツの都市ハンブルグにおいて各国の諜報活動が活発化していた。

ドイツ諜報組織の末端チームで部下をひきいるバッハマンは、密入国したイスラム過激派らしき青年を追う。

関係者の即座の逮捕を求める上層部やCIAに反対して、バッハマンは銀行家や弁護士、そして支援団体へと芋づる式に接触していく。

 

スパイ映画としては静かな、恐怖よりも信頼を重視する、落ちついた佳作だった。

これが遺作*1となったフィリップ・シーモア・ホフマンが主人公の諜報員を演じて、衰えた肉体*2に鞭を打ちながら荒事にも手を染める。

しかしバッハマンはテロ対策チームをひきいる立場として、荒事はできるだけ避ける。テロ関係者も安易に捕まえたりせず、できるだけ仲間にひきいれ、より深くテロ組織にくさびを打ちこもうとする。

中国の古典に「巧緻は拙速に如かず」という言葉がある。「できあがりがいくら立派でも遅いのは、できがまずくても速いのに及ばない」という意味だ。しかしこれはもともと時間制限が厳しい国家試験の教訓。長期的な視野に立ち、永続的な世界の安定を目指すべき国家の諜報員は、「拙速は巧緻に如かず」なのだ。

 

あえていうなら、放送時間と同期して24時間以内に事件を解決するTVドラマ『24 -TWENTY FOUR -』のアンチ的な作品だ。

方針を決める会議において、それを象徴する場面がある。

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拷問して自白させたつもりでも、追いつめられた無実の人間が拷問者を満足させる嘘をついただけかもしれない。そうした最新の知見が反映されたリアルな描写だ。

 

本筋に入っても、バッハマンの方針はどこまでも地味で、対外的な会議や折衝がくりかえされる。72時間という期限を切られて、ついに拉致監禁という手段にうったえるが、それでも相手を懐柔させるという方針は変えない。

どのような相手であっても良心をもっていることを信じて、説得をつづける。そんな理想主義的でいて長期的には現実主義的なスパイの信念が、ヨーロッパ映画らしい静謐な映像でつづられる。

*1:ここでは死後に公開されたという意味で、より遅い時期に公開された遺作として『ハンガー・ゲームFINAL』がある。

*2:亡くなったのは46歳だが、画面ではかなり老いているように見える。

時間移動によって輪廻の蛇に飲みこまれたひとりの物語『プリデスティネーション』(01:37:29)配信期間:2017年10月6日~2017年11月5日

ロバート・A・ハインラインが1959年に発表したSF短編『輪廻の蛇』を原作として、2014年に公開されたタイムスリップSF。

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監督は、極限状況ミステリホラー『SAW』シリーズ最新作『ジグソウ:ソウ・レガシー』に抜擢されたスピエリッグ兄弟。

映画『ジグソウ:ソウ・レガシー』公式サイト 11.10(金)公開

この最新作の宣伝をかねての初無料配信だと思われる。

 

爆弾魔を阻止する時間移動者の作戦が描かれた冒頭から、過去の時代の酒場で接触した男から奇妙な半生が語られる。そうして映画の半分をしめる語りの後、その半生にどのような背後関係があったのかが描かれていく……

この『プリデスティネーション』は、観客がSFの約束を知っていることが前提のつくりで、あまり台詞で説明せず物語を展開していく。しかし『ドラえもん』や『シュタインズゲート』でタイムパラドックスに慣れている日本の観客には充分だろう*1

どこまでも自己愛的で孤独な人間のドラマとして、哀しい美しさがあった。

 

映像も低予算だが、原作の時代性を活用したレトロな近未来感と、落ちついた戦後ニューヨークの情景で、SFらしさを存分に感じさせてくれる。

爆弾魔のテロはほとんど写真記録で処理されるが、冒頭のシークエンスなどで充分にショッキングな映像は提示される。あくまで数奇な時間移動を追いかけていく謎解きとして楽しめばいい。

ただ裸体のボカシが多くて、子作りや性転換がかかわってくる物語のノイズになってしまっているが、日本で視聴するなら我慢するしかないか。

*1:短編の原作にいない爆弾魔を加えて、複雑さを増しているらしい。ただ主人公の上司も一種の変身ではないかと疑ったが、そこまで複雑ではなかった。

どこまでも真っすぐ歩んでいくヒーローの物語『血界戦線』(全12話+総集編1話)配信期間:2017年10月1日~2017年10月7日

霧に飲みこまれ異界とつながったニューヨークを舞台とした現代ファンタジー。東映出身の松本理恵監督が、BONESで2015年に制作した。

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監督を交代したTVアニメ2期『血界戦線 & BEYOND』の放映が10月にひかえており、その宣伝をかねての配信だろう。

TVアニメ「血界戦線 & BEYOND」公式サイト

 原作の話数が少なかったこともあり、できるだけ内容を尊重しつつも、アニメオリジナルキャラクターでエピソードを連結。

超人秘密結社ライブラに入った少年を主人公に位置づけ、ヒーローの背中を追いつづけ、その魂をうけつぐまでの物語としてまとめなおした。

 

ハイテンションでスピーディなバトルが展開される第1話から、延期しただけあって1時間SPとして堂々たるクライマックスを展開した最終回まで、どこまでもダークな世界で光に向かうヒーローの物語として素晴らしいものがあった。