朝鮮戦争で孤立した南北兵士ふたりの奇妙な同行を描く、2016年の韓国映画。無料配信を約二週間。
重要な機密文書を運ぼうとした韓国軍の伝令部隊がひとりを残して全滅した。物資が貴重な朝鮮人民軍の戦車部隊がひとりを残して全滅した。
はじめて戦車を操縦しようとしてうまくいかない朝鮮人民軍の若い兵士と、機密文書をさがしてその兵士を捕虜にした年かさの兵士。
ふたりは不思議な距離感で最前線を右往左往することになる……
監督および脚本は『国選弁護人ユン・ジンウォン』等の脚本家チョン・ソンイル。これが初監督作品となる。
かなりコメディチックな戦争映画で、不条理でありつつ牧歌的。影絵アニメのようなOPと能天気なテーマ曲が全体の方向を印象づけている。
物語の中心となる戦車は、きちんと実物大で再現しつつも軽いハリボテ感があるが、物語のムードには合っていた。市街地にのりこんだり家屋を破壊したり、けっこうな見せ場も多い。戦車内部の兵士ふたりのやりとりも、舞台劇のような楽しさがある。
戦闘機のVFXは韓国映画らしく世界水準だし、あくまで背景的な砲兵部隊も広々とした陣地を設営*1。物語に必要とされるリソースを超えて、技術的にできることを全てやっている。
ユーモラスな内容ながら戦争映画愛好家への目配せも多い。終盤のシチュエーションは北アフリカ戦線を舞台にした米国映画『戦闘機対戦車』の引用だろう。
物語はオーソドックス。兵士が衝突しながらたがいを知り、やがて親近感をおぼえるが戦争の大局にぬりつぶされる……そんな定型をていねいに無駄な登場人物を出さず、必要充分につくりこんでいる。
機密文書が完全なマクガフィンで何の意味もないまま終わるが、それが戦争の虚しさを感じさせる。脚本出身監督らしくコンセプトがはっきりしている。
冒頭の戦闘が終わるまでを見て、そのノリが楽しめたなら最後まで視聴する価値はあるだろう。
そして、ふたりの主人公以外に印象に残ったのが牛。愚かな人々が迷う映画で、常に正しいことをおこなう唯一の存在だ。
調べてみると、主演俳優インタビューで牛もまた主人公と語られており、監督も撮影後に出演料をあげたという。
ソル・ギョング「ヨ・ジングと『西部戦線1953』は女優の故イ・ウンジュがつなげてくれた」 - Kstyle
雄牛の演技が思ったより上手すぎて、チョン・ソンイル監督が撮影を終えて出演料もあげたと聞きました。最高級の飼い葉を与えてほしいと、持ち主の方にボーナスをあげたそうです(笑) 実は「西部戦線1953」はソル・ギョング、ヨ・ジングそして雄牛、戦車が主人公です。
*1:戦争にはやる現場の隊長が、ただの戦闘狂に見えて、その動機が語られる場面で世界観が広がりをもつところが印象的。