何度となく無料配信された2008年の韓国映画が、ひさしぶりに配信。慰問団に入りこみ、夫を追いかけた女性の視点で戦時下のベトナムを描く。
民主化により軍事政権時代の政策が批判できるようになった現在も、韓国では正面からベトナム参戦を批判することが難しいと聞く。主軸国でありながら、リアルタイムで映画界が反戦をうったえていた米国とは対照的だ。
しかしこの映画は韓国軍そのものを描くのではなく、軍隊に夫をとられて追いかけるヒロインを配置することで、うまく米国韓国ベトナムの三者を俯瞰で描くことができている。
田舎の地味な女性が、堂々と兵隊の前で歌うこともできず、金目当ての業界ゴロに利用されて戦地を転々とする。
少しずつ衣装をそろえ、メンバーを集めて、芸能活動が華やかになっていく。米兵のブーイングにさらされていたのが嘘のように、韓国兵をまどわすセクシーな歌姫としてふるまっていく。
そんな慰問歌手として完成していく縦軸をとおして、さまざまな陣営の立場を映画は中立的に映しだしていく。市街地のテロに対して、おそらく誤認で射殺される子供。慰問団を捕虜にしたベトナム人は、地下に住みながら優しい共同体を築いている。韓国軍の平和のために戦うという建前も、明らかに空虚なものと位置づけられている。
あくまでヒロイン個人のドラマとして完結するため、ベトナム戦争批判といえるほどには踏みこんでいないが、現代の戦争映画に求められるバランス感覚はしっかり備えている。
映像を見ても、充分にハリウッドと比肩する戦争映画として成立している。
おそらくタイで撮影したと思われるが、きちんとベトナムらしく見える情景を切りとっていて、粗を感じさせない。
大規模な陣地セットや、さまざまな銃火器の描写もハイレベル。アクション演出で向上をつづける韓国映画の、2008年時点の到達点が確認できる。