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フリームービーメモ。GYAO!、YOUTUBE、バンダイチャンネル、ニコニコ動画、等々で公式に無料配信されているアニメや映画の情報や感想

日米が秘密裏に建造した原子力潜水艦が、乗組員によって謎の独自行動を始めるポリティカルアクション『沈黙の艦隊』(01:40:22)配信期間:2019年5月22日〜6月4日

『空母いぶき』が実写映画化されているかわぐちかいじが、初めてミリタリーを題材にして大ヒットした漫画。その忠実なアニメ化作品が初無料配信。

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サンライズ制作、高橋良輔監督、吉川惣司脚本というリアルロボットアニメ『装甲騎兵ボトムズ』のスタッフがタッグを組んだ作品。

 

もとは2時間枠のTVSPとして制作されたが、諸事情で先にソフト販売され、後に深夜枠で放映。

そのため長編ながら当時のテレビモニターにあわせて4:3のスタンダードサイズだが、劇場公開されてもおかしくないほど映像はしっかりしている。

キャラクターデザインをタツノコプロのベテラン加藤茂がつとめ、マッドハウスで活躍する箕輪豊や『銀河英雄伝説』の清水恵蔵が作画監督として参加。劇画調のキャラクターと地味で複雑なメカニックを手描きで破綻せずに動かしている。

アクションシーンも充実。反乱した原子力潜水艦は最新鋭だが強すぎず、基本的に奇策と度胸で米軍を上回っていく。軍事描写は必ずしもリアルではないが後出し設定は少なく、一貫性はあるので、そういう世界観と納得できる。

 

原作漫画は、連載開始時はソビエト連邦の崩壊直前で、連載途中に説明なくロシアに設定変更されたが、アニメ化においては最初から日米の対立構図を主軸にするよう改変。

まだ経済的に伸びる可能性を残しながら米国の傘下で葛藤していた日本の、今となっては珍しい反米ナショナリズムを背景として、物語が進んでいく。

反乱した部隊が乗るのは、国民どころかリベラルな日本首相にも秘密裏に建造した原子力潜水艦であり、米軍に隠れて核兵器を搭載した可能性もある。日米どちらもあつかいかねる難しさと、拿捕して米国側の兵器技術を知りたい日本側の思惑によって、原子力潜水艦が独立国家を宣言するという奇想が、綱渡りのように成立していく。

もともと原作者は政治的な作品より海の刑事物を描くつもりだったらしいが、原子力潜水艦を動かしている男の謎めいたふるまいは、たしかにリアルな政治劇というよりもミステリの味わいが強い。描かれる政治状況が古びていても、エンターテイメントとしては現在でも楽しめる。

 

ちなみに連載当時は描かれる国際社会こそがリアルで、それをデフォルメされた原子力潜水艦がかきみだす作品と思われていた。

しかし911同時多発テロ以降の少人数で世界をかきみだす軍事力を発揮する時代や、イスラム国の泡沫のごとき誕生と消滅などを思うと、原子力潜水艦が独立するアイデアにこそ先見の明があったのかもしれない。

良くも悪くも韓国映画の標準的な復讐劇『少女は悪魔を待ちわびて』(01:48:42)配信期間:2019年5月27日~6月26日

2016年の韓国クライムサスペンス。要ログインのR15で、初無料配信。

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わずか15年で出所することになった連続殺人犯を、殺された父の復讐のために罠にかけようとする娘*1と、今度こそ連続殺人の全貌をつかもうとする警察の戦いを描く。

 

最後に示される、狂気におちいってまで娘が何を目指していたのかという真意は、あまりにも救いがなく、それでいて静かで穏やかだ。

個人の復讐というそれはそれで罪かもしれない行為を、あがなうだけの力が結末の画面から感じられた。

 

ただ、出所した犯人の不自然さから「実は真犯人ではない」と感じて、復讐の「虚しさ」を描く作品になるかと思ったが、犯人は「ふたり」いたという真相が特に伏線もなく明かされただけだった。

どんでん返しにはもう少し伏線と驚きがほしいし、それくらいの中途半端なヒネリなら入れずに、素直に少女と犯人と警察の三すくみを展開してほしかったかな。

*1:待っている期間を象徴するように邦題は「少女」だが、時系列からすると復讐する時点ではそれなりに成長しているし、演じるシム・ウンギョンも成人している。

人は神の視点で戦争ができるのか『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(01:42:03)配信期間 2019年4月29日~5月28日

アラン・リックマンの遺作となった、2015年のイギリス戦争映画。初無料配信を約1ヶ月。

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ケニアの首都ナイロビでイスラム系テロリストをとらえようと、各国合同で小さな作戦が展開される。

米国の無人偵察機、いわゆるドローンが高空から全体を監視。ケニアでは現地の特殊部隊が待機して、一般人にまぎれた偵察員が敵地へ接近。英国が全ての情報をつかさどり、とるべき行動を選ぶ。

最初は殺害ではなく捕縛しての裁判が目的だったが、状況が変転して新たな情報が出てくるごとに判断の変更をせまられ、そのたびに議論が百出する……

 

最新兵器ドローンを主軸とした戦争映画だが、ただモニターごしに現代的な戦場を描く作品ではない。その情報がリアルタイムで共有されることによって、さまざまな立場が同時に動いていくことを描く群像劇だ。

冒頭でナイロビ現地の一般家庭が映った時点で、彼らが作戦に巻きこまれる展開になることがわかる。彼らが原理主義とは距離のある価値観を持っているのは観客の共感をさそうためだろう。しかし、危険な現場と安全な基地という対比というわけでもない。

 

テロリストは倒すべきだが、近くにいる現地家族は巻きこみたくない。

その葛藤によって許可を出す政治家を迷わせ、会議を踊らせ、煩雑な手続きで判断が先延ばしされていく。兵器を操縦する軍人も、責任に応じた権利を主張して、周囲の被害をできるだけ避けようとする。

 テロリストと現地家族は、群像劇を動かすための記号として処理されている。欧米からテロリズムに身を投じた動機などは描かれないし、現地家族は救われるべき一般人と示す以外の複雑な描写はない。

対する攻撃側は、新たな意見によって判断が複雑化していく。少数の命を巻きこんで多数の命を救う選択肢が議論されていたところ、少数の命を巻きこまず多数の命を犠牲にさせれば宣伝戦で勝てるという「視点」が提示されたりする。

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さらにケニアが友好国で、テロリストが英米人ということで、その命を奪う攻撃に特別な許可が必要になるという皮肉もある。

圧倒的に安全な立場から、どの命を奪うのか。政治家と軍人が神の視点で掌の中の命を選ぶ戦場。

 

実のところ、状況はほとんど動かず、同じ画面に映る役者も少なく、近年の欧米の戦争映画としては低予算だろう。

しかし、作戦を合同で進めていく離れた場所と、緊迫の現地をカメラで切りかえていくことで、画面は単調さをまぬがれている。

映される光景は同じでも、新たな情報と展開によって意味が変わっていくことも、サスペンスを持続させる。

ひとりテロリストに接近して、危険な綱渡りをつづける現地偵察員によって、戦争映画らしい緊迫した描写も出てくる。

ハリウッド映画と比べてイギリス映画らしい落ちついたカメラワーク*1も、サスペンスフルな戦争映画でありながら独特の渋味ある雰囲気を作りだしている。

 

そして物語の結末は予想されたとおりだが、ひとつだけそれまでの視点を裏返すところがある。

ずっと神の視点で描かれてきた戦場で、傷ついた少女が動いていることだけを確認して作戦が終わる。

そして少女を救おうとする父親の願いに応じて、テロリストが車の荷台に乗せてやる。そこでテロリストは設置していた武器を地面に捨てることを選択した。選択することができた。

少女をかかえて病院に入る父親。神の視点で戦場を見つめていた政治家や軍人はそれを知らない。可能性は知っていたが、無視することに決めたのだ。

会議で指摘された宣伝戦の観点から考えると、やがて父親はテロリズムに身を投じるかもしれない。選択肢は欧米の権力者だけが持っているわけではないのだ。

それでも人は神の視点で戦争ができるのか。

*1:テーマとの関連もあって固定カットや俯瞰カットが目立つ。さらに登場人物を画面の中心に置くカットの多用が独特。