1995年に書かれた東野圭吾原作の冒険小説を、堤幸彦監督が2015年に実写映画化。
自衛隊に納入予定の巨大ヘリが、開発者の子供を乗せて無人発進。その巨大ヘリを高速増殖炉の上空に停止させ、日本の全原発を停止するよう要求する声明が出される……
原作は、もんじゅ事故以前に書かれた。そこで原発への反対意見と賛成意見の両方を紹介しながら、タイムリミットまでに事態をどう収拾するかのサスペンスをもりあげていく。
映画も、原作が書かれた1995年を舞台として、原発に対する賛否両論をおりまぜながら、携帯電話を使えないサスペンスをつくりだしていった。
展開はほとんど原作と同じで、架空の巨大ヘリ「ビッグB」のVFXクオリティも悪くない。子供たちがヘリから脱出する序盤でアクションを足したりしたのは良かった。
シネマスコープの横長な映像は充分で、犯人との激しい追跡劇なども、日本映画としては予算の不足を感じさせないスケール感がある。
ただ、かなり頁数の多い原作をそのまま映画にするのは難しかったのか、謎解きサスペンスとしては展開が早すぎる。
意外性を感じる前に状況が変わるし、伏線も足りない。登場人物の絶叫や決断も、そこまでに感情が動く過程を描けていないから、それぞれの台詞がむきだしの政治的メッセージとしかならず、物語から浮いてしまう。
それでいて現代社会に強く訴えようとするメッセージも腰が引けていて、どうしてもこの原作だからこそ映像化したいという熱を感じない。映画オリジナルで東日本大震災パートを追加しながら、原発事故にひとことも言及しない。
俳優の演技も、全体として邦画の悪癖を感じさせる。堤監督は日本のお約束演出を茶化したドラマ『ケイゾク』『トリック』からヒットメイカーとなったが、それで大作を撮ると仕事として流しているような演出しかしないところがある。