初監督作品『ベルヴィル・ランデブー』で絶賛されたシルヴァン・ショメ監督による、2010年のアニメ映画。初無料配信から3カ月ほどたって、ふたたび配信。
くりかえしギャグなど笑えるシーンを用意しつつ、あくまで老いて時代遅れとなっていく人々をいつくしむ人情劇の傑作。
手品師を魔術師と思いこんで尊敬する少女は、主人公の老手品師にとって都合のいいヒロインのようだが、そうではない。自立した一個の人格であり、それを老手品師も認めて退いていく。
素晴らしいのはアニメーションとしての完成度。台詞は主人公のものしか翻訳されず、しかし映像を見ているだけで物語は理解できるし、登場人物の心情もつたわってくる。
落ち着いた色彩と、繊細な描線で、登場人物が背景美術にとけこんでいる。ひとつのシーン、ひとつのカット、どれも一枚のイラストとして成立しているほど美しい。3DCGの活用もうるさくない。
日本のアニメと比べてカット割りが少なく、クローズアップやバストアップを使っていないことも特色。ほぼ全てのカットで登場人物の全身が映っている。それが舞台劇のような印象を生みだしている。