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徳川三代目の跡目争いの果ての、唖然とするラスト『柳生一族の陰謀』(02:09:58)配信期間:2018年5月12日~5月25日

深作欣二監督による1978年の大作時代劇が初無料配信。徳川の世が盤石になるまでの最後の争いを見せる……

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最低限の撮影がしっかりしているので、横長のシネマスコープでも画面は成立しているが、あくまで陰謀劇がメインであって特撮や合戦の見せ場はない。

大作といっても東映なので、血糊や特殊メイクは安い。おおっぴらに戦えず暗殺するしかないので、最大の衝突でも数十人しかエキストラはいない。

しかし、それが作品の評価を下げるかというと、そうでもない。家光派と忠長派にわかれて陰謀をしかけあう展開を、オールスターでテンポ良く見せていく。これが初時代劇となる深作監督はストップモーションなどのモダンな演出を活用。千葉真一JACによって殺陣のスピードも刷新された。

重厚なタメはないが、権力の暗闘を描くエンターテイメントとしては充分に楽しい。 

 

物語のメインとなるのは秀忠毒殺後の跡目争い。出雲の阿国や、根来衆といった歴史的なキャラクターがからみつつ、完全なフィクションだ。

幼少時に次期将軍として期待されていた次男の忠長と、正統でありながら能力が疑問視されていた長男の家光。しかし劇中で言及されるように春日局の努力によって祖父の家康は家光を後継者と明言したし、成長した忠長は期待の落差からか奇行に走るようになり父親の秀忠からもうとんじられるようになった。

つまり愚かな家光が陰謀によって将軍になり、有能で誠実な忠長が悲劇的な結末をむかえたというのは、あくまで映画の嘘。権力争いの恐ろしさを風刺するためのデフォルメだ。

もちろん史実でないからといって悪い時代劇ということではない。たとえば水戸黄門にしても諸国を漫遊などしなかった。最初から架空の設定にそって物語が展開するので、そういうパラレルワールドの歴史と思いながら見ればいい。諸行無常な群像劇として楽しめるはずだ。

 

そして、そのような架空の設定ということを念頭においてなお、ラストにおける史実の逸脱ぶりには唖然とする。

劇中でも、ナレーションでも、それがありえないことだとはっきり語っている。しかしだからこそ、ありえないことがなしとげられたことに、フィクションでしか描けないカタルシスがあるのだ。

 

それと、典型的な公家キャラに見える烏丸少将の、意外な活躍も楽しい。

口調や雰囲気は下衆なのに、実際の行動は知的な戦士というギャップがすごい。

つい最近にTVアニメ『ポプテピピック』でパロディされたことでも話題となった。

togetter.com

悪に対処するため悪へ同化していった熱血警官の不祥事『日本で一番悪い奴ら』(02:14:38)配信期間:2018年5月5日~5月18日

点数稼ぎのため犯罪を放流していた北海道警の、中心人物の手記にもとづく2016年の映画。

今年1月*1につづいて、またも短期間ながら無料配信。女を抱くシーンなどがあるためかR15でログイン必須。

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映画の規模感はVシネマに毛が生えたくらいだが、できる範囲で工夫して*2、1970年代から2000年代にわたる稲葉事件をテンポ良く見せていく。

狭い路地のカーチェイスや、ヤクザとの緊張感ある対峙なども、おそらく低予算だろうにがんばっている。

 

北海道が舞台になっているのも良かったのだろう。

長崎市長警察庁長官への銃撃という歴史的な事件を、あくまで新聞やTVで知る遠い出来事としてすませらた。

それでいてそれらは年代の説明描写に終わらず、銃刀法違反の検挙が重視される背景として位置づけられている。

 

主人公の熱血警官を演じるのは、綾野剛

酒を飲まずに煙草でむせるような若者が、警察の柔道大会で勝つために警官となり、犯罪者に近づくために同化していく。

いつしか煙草を好んで吸うようになり、かつて柔道チャンピオンだった体力は衰えていく。

 

潜入のためにスパイをつくって仲良くなっていく描写も、ヤクザ映画やマフィア映画のパターンとしてよくできている。

北海道警ぐるみでチンピラが祝福される局面まである。そこまで上昇したからこそ破滅した時の落差も大きい。

同時に、そうした友情や仲間意識を映画は全肯定はしない。しょせん主人公は便利に使われてるだけのトカゲの尻尾で、主人公もまた周囲を無自覚に利用していただけだということが、映画を最後まで見れば痛感するしかない。

もちろん警官の正義も映画は懐疑しており、描写される日の丸と君が代が皮肉きわまりない。

 

そうした若者が破滅していく悪夢を、静かに変化するサスペンスとしてではなく、あくまでコメディとしてテンポ良く見せていったのもいい。

おかげで2時間を超える時間が沈鬱になりすぎず、エンターテイメントとして飽きさせない。

*1:悪に対処するため悪と同化していった熱血警官の顛末『日本で一番悪い奴ら』(02:14:38)配信期間:2018年1月11日~2018年2月7日 - フリームービーメモ@はてな

*2:主人公が警官になった当初は署内が煙草で白く煙っていて、時代が進むにつれて空気が綺麗になっていくところがわかりやすい。

巨大ヘリを原発に落とす?日本製ポリティカルアクション!『天空の蜂』(02:17:55)配信期間:2018年4月28日~5月11日

1995年に書かれた東野圭吾原作の冒険小説を、堤幸彦監督が2015年に実写映画化。初無料配信が2週間。

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自衛隊に納入予定の巨大ヘリが、開発者の子供を乗せて無人発進。その巨大ヘリを高速増殖炉の上空に停止させ、日本の全原発を停止するよう要求する声明が出される……

原作は、もんじゅ事故以前に書かれた。そこで原発への反対意見と賛成意見の両方を紹介しながら、タイムリミットまでに事態をどう収拾するかのサスペンスをもりあげていく。

 

映画も、原作が書かれた1995年を舞台として、原発に対する賛否両論をおりまぜながら、携帯電話を使えないサスペンスをつくりだしていった。

展開はほとんど原作と同じで、架空の巨大ヘリ「ビッグB」のVFXクオリティも悪くない。子供たちがヘリから脱出する序盤でアクションを足したりしたのは良かった。

シネマスコープの横長な映像は充分で、犯人との激しい追跡劇なども、日本映画としては予算の不足を感じさせないスケール感がある。

 

ただ、かなり頁数の多い原作をそのまま映画にするのは難しかったのか、謎解きサスペンスとしては展開が早すぎる。

意外性を感じる前に状況が変わるし、伏線も足りない。登場人物の絶叫や決断も、そこまでに感情が動く過程を描けていないから、それぞれの台詞がむきだしの政治的メッセージとしかならず、物語から浮いてしまう。

それでいて現代社会に強く訴えようとするメッセージも腰が引けていて、どうしてもこの原作だからこそ映像化したいという熱を感じない。映画オリジナルで東日本大震災パートを追加しながら、原発事故にひとことも言及しない。

俳優の演技も、全体として邦画の悪癖を感じさせる。堤監督は日本のお約束演出を茶化したドラマ『ケイゾク』『トリック』からヒットメイカーとなったが、それで大作を撮ると仕事として流しているような演出しかしないところがある。