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フリームービーメモ。GYAO!、YOUTUBE、バンダイチャンネル、ニコニコ動画、等々で公式に無料配信されているアニメや映画の情報や感想

感染症で子供が生まれず滅びゆく近未来SFを、沈鬱な風景と驚異の長回しで実感的に魅せる『トゥモロー・ワールド』(01:49:12)配信期間:2020年5月24日~6月13日

ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督による、2006年の英米合作映画。おそらく初無料配信を2週間。

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2027年の世界は、インフルエンザと思われる感染症が蔓延し、18年前から子供が生まれなくなっていた。しかしイギリスだけは不法移民を武力で隔離しつつ秩序をたもとうとしている。

かつて反政府運動をおこなっていた公務員セオは、かつての恋人にして反政府団体FISHのリーダーとなったジュリアンに拉致される。セオの行政コネクションをつかって、ひとりの女性の通行証を入手するために……

 

オーソドックスな近未来ディストピアSF小説を、イギリス映画らしく陰鬱に映像化。

直前に担当した『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で児童向けファンタジーシリーズをシリアスタッチに変更した監督の手腕が冴える。

ゼロ・グラビティ』で見せた驚異の長回しの原型も確認できる。希望の持てない灰色の生活から、激しいテロ活動がはじまるまでを、カットを割らずに表現。実際は複数のカットをつないでいるが、カメラワークも色調もスムーズで違和感がない。まるで現場にいるような感覚でアクションを楽しめる。

細かいVFXも自然で、停滞しながら技術が発展した近未来らしさがあるし、戦車までもちだした戦闘も迫力充分。

 

SFとしては古典的な内容で、敵味方が争奪する存在も意外性はない。

しかし、あえてシンプルなわかりやすい設定*1にしたのだろう。つくりこんだ近未来世界をジェットコースターのように体験していく作品と思えば、これはこれで正しい。

主人公は巻きこまれただけで、その場しのぎで行動するだけだが、争奪目標がはっきりしていて、その重要性もSF設定から理解できるので、どれだけ状況が混乱しても物語についていけなくなることがない。

それに、世界的な感染症の蔓延と秩序崩壊、それを防ごうとして排外主義にはしる国家……古典的な世界観でありながら、だからこそ新型コロナ蔓延下の現代を正確に予見している。

 

映像的な面白さは充分あるし、偶然にも現在にかさなる世界観も興味深く、いま見る価値がある佳作だ。

*1:イギリス一国だけ秩序をたもっているのは不自然だが、それはイギリス国内で流れているプロパガンダ的ニュース番組の説明にすぎず、実際にイギリスだけ崩壊をまぬがれている設定とは映画では確定していないように見える。

現代エンタメとして原典を尊重しつつ、ポスト311作品として光子力の光と闇を描く『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』(01:34:48)配信期間:2020年6月1日4時~6月7日26時

世界では2017年に、日本では2018年に公開された完全新作映画。昨年9月に世界初無料配信され*1、今回は1週間無料配信。

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かつて敵が襲ってくる目的だった理想的エネルギー「光子力」。それが世界的な技術革新をもたらすと同時に、異なる世界線から巨大なマジンガー型遺跡インフィニティを呼びよせる。

遺跡からあらわれた人工知能少女を主人公が育てる一方、かつての敵Dr.ヘルがロボット軍団をもってインフィニティを確保。戦士を辞めた主人公は、広報用の後方要員として配置されるが……

 

かつて大ヒットしたロボットアニメ『マジンガーZ』と続編『グレートマジンガー』の物語をそのまま引きつぎ、大人になった主人公たちのとまどいと再起を描いた。

合作漫画家「うめ」のシナリオ担当小沢高広が、外伝漫画につづいて今回のアニメ脚本を担当。生き生きとしたキャラクターで重いメッセージを軽やかに見せる。

古臭いといっていいキャラクターや設定を、現代的な問題をかかえた社会に挿入することで、たがいを尊重すべき存在として浮かびあがらせる。現代アメコミヒーロー映画が成功したメソッドだ。

 

光子力プラントに反対する住民の立看板をチラリと見せたり、マジンガーをめぐるデモを見せたり、意見百出してまとまらない新国連のありさまをDr.ヘルが「多様性」と批判したり。

そうした反体制的な描写が、皮肉をまじえつつも全否定はせず、弱き人々の叫びとして尊重していることも好ましい。

そして強者が世界を動かすのだという敵の世界観を、最終決戦で主人公側の作戦がゆるがす。ロボットアニメとしてのカタルシスが、社会的なメッセージとかさなり、物語を力強く支えた。

 

監督は映画プリキュアシリーズの初期を担当した志水淳児。あまり絵作りがシャープな監督ではないし、飯島弘也の濃厚なキャラクターデザインも現代の流行りではないが、結果的に1970年代作品の直接的な後日談らしい雰囲気がある。

一方、3DCGで描かれた巨大ロボット描写はなかなか良い。原典の解像度をあげればこう見えるだろうというデザインラインの重厚なメカが、ところせましと暴れまわる。

特に最終決戦でのマジンガーZの全身武器っぷりは、主題歌にある「鉄の城」そのもの。直前まで鬱屈した展開がつづいただけに爽快感たっぷりだ。

中盤で量産型マジンガーを主人公が操縦し、一線をしりぞいているのに他のパイロットより巧みな動きを見せた描写も効いている。マジンガーZの全力を引き出せるのが主人公しかいない説得力が、きちんと物語をとおして説明されている。

最高のスタッフをそろえて予算をそそぎこんだB級SFホラー『ヴァイラス』(01:39:23)配信期間:2020年5月19日~6月8日

漂流船を舞台とした1999年の大作VFX映画が2週間無料配信。

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ロシアの宇宙ステーションから謎の通信がとどき、ロシアの巨大観測船がパニックになる。

1週間後、台風で沈没寸前となった貨物船が、漂流する巨大観測船にたどりつく……

 

ジョン・ブルーノは、この映画が実写初監督。それ以前はアニメ映画の監督をした後、主にジェームズ・キャメロン作品の視覚効果を手がけていた。

さすが特撮スタッフ出身だけあって、映像面は今見ても素晴らしい。冒頭にしか出ない宇宙ステーションからしてミニチュアも合成も精度が高い。巨大観測船は上に人間が乗れる13メートルの巨大なミニチュアを作ったといい、水飛沫や火炎のスケール感も違和感ない。

メイキングを見るのが好きです�A(ミニチュアと水): 中年ライダータバスコの「7割くらいは映画のはなし」

特に「ヴァイラス」「T-2」「アビス」で特殊効果を担当したSFXマンが監督しており、その特撮に対するこだわりがすごいです。

冒頭からハリケーンに翻弄されるタグボートのシーンも大迫力、そして13mの大きさの観測船が波にのまれ、最後には大爆発
ヴァイラス2.jpgヴァイラス3.jpg



メイキングでは、船のミニチュアの説明よりも、マシーン人間合体してできたボーグのような生命体のアニマトロニクスの説明の方が10倍尺を取っていましたが、個人的には船のミニチュアのメイキングの方がグッときますね。

アニマトロニクスや特殊メイクに、発展途上のCGを併用した敵の描写も楽しい。大作映画にしては景気よく人体が破壊され、娯楽ホラーとして満足感がある。

俳優陣も充実していて、キーファー・サザーランドの実父ドナルド・サザーランドが欲望にまみれた船長を演じたり。すでにベテランでありながら、メカと融合した半裸の特殊メイクで怪演した。

 

ただいかんせん物語は平凡で、逃げこんだ閉鎖空間で謎の怪物に襲われていく古典ホラーと何も変わりない。漂流船そのものが怪物という展開も、映画公開の約十年前に漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の1エピソードで読んだ*1

一応、あまり恋愛関係でベタベタしない良さはある。ふたりいる女性が足をひっぱるだけではなく、かといって『エイリアン』のように女性ひとりだけ残る「ファイナルガール」パターンでないことも感心はした。有色人種を美化しすぎず愚鈍にも描かない慎重さも悪くない。

しかしSFとしての面白味が設定にないし*2、脇役のほとんどが目先の欲望にとらわれてキャラクターの幅がせまい。

巨大観測船のなかで敵の謎を解いていく展開なのに、船内の位置関係がわかりづらいのも難点。どこからどこを目指して移動しているのか理解できないので、敵がいきなり現れても驚けない。最後のちょっとした引っかけも古典的すぎて驚きがない。

本編が約1時間半と短く、映像の見せ場も多いので、見ている間は楽しめるが、良くも悪くも後に残るものがなかった。

*1:この漫画自体がさらに約十年前の映画『ゴースト 血のシャワー』のオマージュだが。

*2:タイトルの本編における位置づけだけ少し面白い。