同名のフランスのアクション映画とは全く関係なく、『君の名は。』の大ヒット直前に短期連載された漫画を実写化した、2018年の日本映画。
一代で野菜中心の食品会社を巨大企業に育てた朝比奈玲男(れお)は、仕事には誠実だが、セクハラが多い欠点があった。
その会社の派遣OLの小鳥遊玲音(れおん)は性格がネガティブすぎて、オッパイの大きさが無駄になっていると陰口を叩かれていた。
ある日、自動車でとある場所へ向かっていた玲男は、ハンズフリー携帯電話の放電で事故を起こし、玲音を巻きこんでしまう。
玲音の肉体で目覚めた玲男は、社長として会社をとりもどそうとするが……
2016年公開で大ヒットした男女入れかわりアニメ映画『君の名は。』の直前、2015年に女性向け*1情報WEB雑誌で短期連載された『レオン』。それをコメディチックに実写化した。
とにかく玲男を演じる竹中直人の存在感が強い。美女に入った状態で男性とラブコメディを演じる時も、たびたび実際の姿として女装した竹中直人に切りかわる。意外と美脚なことと、玲音を演じる知英と身長が近いこともあって、切りかえに違和感ないことに大笑い。
しかし女装を嫌悪する笑いにはとどめず、異なるジェンダーを生きることで視野を広げる古典的な物語としても意外とよくできていた。
男性視点で女性の苦労を追体験していくし、足を引っぱるような対立する女性陣にもそれぞれのよさや苦しみがあることを描いていく。1982年公開の映画『転校生』が、入れかわりによって性を学ぶ児童向け作品だったことを思い出させる。
そこに限らず、男女が入れ替わるジャンル作品をいくつかパロディしながら、違和感のないドラマを展開している。元ネタとは全く違うシチュエーションで、かつ自然に「君の名は」というワードを台詞に入れこんだギャグに笑った。
やや女性観客を意識したかのようで、逆に女性側が男性の苦労を追体験したりはしない。お約束の性的描写もキャバクラではたらく場面くらいで、裸体どころか下着姿すら登場せず、それが下品なコメディのようでいて不思議な上品さにつながっている。
竹中直人の姿で男性と恋愛する描写はボーイズラブ的な面白さがある。いつもの竹中直人らしい怪演でいて、ちゃんとラブコメディとしてもりあげていくのがすごい。
知英もネガティブで気弱な女性と、ガハハ社長の人格が入った女性を演じわける。韓国出身の女優だが、まったく違和感なく設定に説得力をもたらしている。
黒幕の敵も外道だが、怪演がきわまることで嫌悪感がわかず、意外とスッキリ見られる楽しい作品だった。
原作の要素をひろいつつ、情報が判明する順序を入れかえたり、立場を少し変更することで、よりキャラクターの行動に説得力が増している。
イメージシーンの合成などは安っぽいが、ルームシェアしている部屋から大企業のビルディング、社長のセカンドハウスなど現実描写で必要なリアリティはしっかり確保。
単独で見てもなかなかの佳作だし、ほぼ理想的な漫画実写化邦画でもある。
ただ一点だけ明らかな難は、眼鏡を外して美女あつかいされる描写に説得力がないこと。
眼鏡を外すな。眼鏡をつけた状態で美しさがわからない視力の人間こそ眼鏡をつけろ。
……そうアイザック・アシモフなら言うだろう。
*1:前身は男性向けだったが、現在は「40オヤジと大人女子のため」とうたっている。Facebookにログイン