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ひとつの湾を舞台にしたコメディチックな中国版アクアマン『人魚姫』(01:33:37)配信期間:2021年2月19日~

少林サッカー』で一世を風靡した周星馳監督の、2016年作品。社会的テーマにとりくみつつ心地良い娯楽にしあがり、アジア興収一位を叩き出した。

gyao.yahoo.co.jp

香港の下町の怪しげで安っぽい博物館には、怪生物の偽物ばかりならんでいた。

一方、富裕層は保護区のはずの湾を売買し、虚飾に満ちたパーティーを開いた。

そして湾を開発可能にした青年実業家リウに、奇妙な女性シャンがおとずれる……

 

『美人魚』という原題から想像できないほど、序盤はコメディタッチで人魚たちもマヌケすぎる。

ヒロインの人魚にしても劇中で目が小さく鼻が大きいと揶揄され、実際に地味な顔立ちの女優が演じる。

ポスターで虹色にかがやく美しい人魚のヒレにいたっては、映画本編では全く違うキャラクターだ。

人魚姫(字幕版)

 

 しかし美しいファンタジーを期待しなければ、見どころの多い娯楽作品であることに間違いない。

 

人魚は類人猿から進化したSF的な由来が語られ、環境破壊に苦しむ少数民族としての性質をもっている。巨大な難破船を住居にして、傷ついた体をよせあって、必死に生き抜いている。

それが海を開発して人魚族を完全に絶滅させるだろう実業家へ、暗殺者として美女をおくりこむ。しかし美女は実業家の長所を知ってほだされていく……というパターンの物語だ。

自然をあつかった物語として古典的で、異種婚姻譚という名称もついているが、この映画は恋人の周囲もじっくり描いて、群像劇的な闘争のドラマに発展していく。原典の人魚姫のライバルにあたる女性も、複雑な人格をもつ存在として立ち上がっていく。

 

コメディからシリアスへ転調してからも、巨大セットを舞台としたアクションが素晴らしい。

かつては乱暴さもふくめて魅力だったチャウシンチーのVFXは、技術力を高めつつも自由奔放さを失っていない。はげしい銃撃戦ともどもアメコミヒーロー映画に近い印象だ。

一方、人間側の戦闘は現代の中国映画らしくリアルで、エキストラの殺陣もしっかりしている。その流血の陰惨さは、少数民族の弾圧のようであるし、漁業における乱獲のようでもある。

さらに無駄としか思えなかった序盤が伏線となり、じっくり余韻のある結末をむかえた。

コメディ描写の多さや方向性に好き嫌いはあるかもしれないが、長すぎない尺にさまざまな良さがつまっている。見て損はない作品だ。

 

ところで、コメディタッチのVFXドラマをとおして社会派なメッセージを送りだすところは、高度経済成長期における日本の特撮やアニメも連想させる。

実際にエンディングで確認できるが、意外なところで当時の日本のアニメ作品が引用されている。

冒頭の環境破壊映像を流すところもふくめて、今の中国は当時の日本と同じ段階にあるのかもしれないと感じられた。