『トンマッコルへようこそ』で知られるチャン・ジン監督の、2014年公開作品。数回目の無料配信。
その不死身ぶりから「サイボーグ」と呼ばれる凄腕刑事ユン・ジウク。しかしその筋骨隆々の肉体は、自分の中の女を否定するために、男を極めた結果だった……
早送りなどの撮影技法も使っているが、韓国映画らしいハイレベルなアクションで主人公の強さが存分に表現できているから、性同一性障害というキャラクターとのギャップがきわだつ。
そのアクションも回転を重視することで演舞のような華麗さがあり、肉体を傷つけながらも独特の美しさがある。
主人公を演じるチャ・スンウォンはモデルだったほど長身で、細身ながらゴツゴツした顔立ちは女性らしさの対極。
それが初めて女装姿を人目にさらす場面は滑稽でありつつ哀愁がただよい、しかし完璧なメイクで堂々とふるまい始めてからは個性的な美女に見えていく。
女性ホルモンの注射痕が麻薬と誤解されることで状況がややこしくなったり、主人公の作りだした虚像にマフィア兄弟が男として憧れたりと、性同一性障害と刑事ドラマを密接にからめた脚本も完成度が高い。
そうして笑いをまじえながら「ニューハーフ」の苦しみを描いていくドラマとしても見どころがある。主人公が少年時代に恋愛関係にあった少年こそが女性っぽい姿で、はやしたてる周囲が女性役をかんちがいする場面のように、LGBTへの先入観をずらした描写も多いのだ。
特に感心したのが、主人公が先輩の「ニューハーフ」を紹介される一幕。元力士として紹介される肥満体の「ニューハーフ」は腰まで手術をして顔面の整形をしなかったように紹介された。しかしその「ニューハーフ」自身は自分が本当の女性だと主張し、力士のような容貌で働くために「ニューハーフ」と称するしかなかったと説明する。
そのようにルッキズムやショービジネスの問題もドラマに組みこみ、LGBTにとどまらないアイデンティティ形成の物語となっていた。あくまで娯楽作品ゆえの限界も感じるが、それでも差別をテーマにした観るべき作品といえるだろう。