小説『シャドー』に関連する連続殺人事件が発生し、小説家が主人公として警察に協力するサスペンス。1982年に公開。
ここのところ連続して配信されているダリオ・アルジェント監督作品のひとつ。『サスペリア』以降にオカルトホラーへ移行していたアルジェント監督が、ひさびさに超常現象の出てこない猟奇殺人サスペンスを手がけた。
人工的な映像美を排して、現実のモダンな建築にロケしている。とはいえBGMのプログレッシブぶりは過去作品と変わらないし、流血の惨劇を正面から映す表現は当時のスプラッタ―ブームによってさらに過剰に。目撃した出来事がクライマックスで回想され、異なる意味に気づくという手法も過去作のまま。
しかし、連続殺人事件の全貌を真相開示の前に気づく観客はなかなかいないだろう。誰が見ても犯人としか思えない人物が予想外の結末をむかえてから、映画全体の構造が変わっていく。
犯人ではありえない「主人公」が「連続殺人に便乗する」ために犯人を「殺して」、それゆえ「アリバイ」を入手するという展開は麻耶雄嵩の某作品を連想させる。さすがに全体として整合性や伏線は不足しているものの、どんでん返しとしてはよくできているといっていい。
けっしてリアルなサスペンスを期待してはいけないが、人工的な世界で読者を驚かすミステリに近い雰囲気はあるのだ。
また、くりかえしイメージシーンで登場する赤いハイヒールの女性は、エヴァ・ロビンスが演じている。
ロビンスは男性として生まれたが、現在までは女優として生きている。なるほどそう知って見ると体型は欧米人にしてもガッシリしているが、同時に超越的な美しさを感じさせ、ファムファタールらしい魅力にあふれている。