2012年の香港映画。工員へのロシアンルーレット強要事件を発端として、弾丸の残らない射殺事件が兵器工場で連続。その難事件に、結成したばかりの刑事コンビがいどむ。
GYAO!の感想レビュー欄の評価が高く、見れば納得の完成度。異国情緒あふれる探偵活劇として満足できる内容だ。
「『シャーロック・ホームズ』シリーズを凌ぐ」という煽り文句は当たらずとも遠からず。1930年代の中国で、良い意味でレトロな探偵活劇が展開される。科学捜査が未発達な時代だからこそ、刑事が個人の能力で活躍し、ホームズ的な推理がこぎみよく披露される。
舞台となるのは、闇夜に黒煙をあげる不穏な工場や、巨大で猥雑で魅力的な市街地。香港映画らしい超人的なアクションはなく、あくまで地に足がつきつつ魅力的な追跡劇が主。それでいて兵器関係の事件だから、銃撃戦で大作らしい派手さを自然に表現できる。とある事件の回想をモノクロサイレント映画のように表現した余裕も楽しい。
登場人物もことごとく魅力的で、顔の区別がつけやすく、ミステリ映画としての完成度を高める。
この作品の特長は、刑事コンビの両方が名探偵なところ。最後まで協力して捜査するから、謎がよどみなく解明されていき、複数の難事件を描きながらテンポがいい。
刑事の理想を堂々と描きながら、重すぎない苦難や挫折も入っていて、ドラマとしての歯ごたえも充分。刑事コンビのそれぞれが、夫婦間の天才的な完全犯罪と、有力者を立件できない警察の腐敗という、推理だけではとどかない社会の暗闇を知っている。それがミステリ的な結末と密接に結びつき、その結末がドラマをさらに深める。
ひとりひとりが物語で機能し、ミステリ的な展開を構成して無駄がない。街角の女占い師の託宣すら、ミステリ作品らしく合理的な真相がある。
謎解きミステリとしても、古典ミステリを意識しつつ、適度にシンプルなトリックが好ましい。どのトリックも複雑すぎず、理解しやすく、映像で見ばえする。
ロシアンルーレットは「拳銃に一瞬で全弾をこめられる道具」を大胆に見せる伏線が印象的。そしてそのトリックがあばかれてロシアンルーレットが「単独犯」と判明することで、連続射殺事件の構図が「共犯者への復讐」から「目撃者の口止め」へ逆転する。トリックそのものは安易だが、そこからの発展が見どころとなる。
さらに連続射殺事件で消失した弾丸は「氷の弾丸」という古典的なトリックを先に試して失敗、さらにいくつかのトリックを試した後、「骨の弾丸」というトリックだと判明する。よく考えると古典的なトリックと同じくらい失敗しそうだが、死体の解剖シーンが映像的な伏線となり、説得させられてしまう。
そして密室トリックは、ほとんど真相は最初からわかっている。刑事コンビの一方は初期に気づいているし、「上下階の音と区別できない」という伏線もあからさま。だが、だからこそ真相の直視しがたい痛みがドラマとなる。