大手の映画制作会社ではなく、独立プロによって制作された1953年のモノクロ映画。おそらく初無料配信を約一ヶ月。
原爆投下にむかうB29乗組員のモノローグ。それは教室で流れる教育的なコンテンツだった。原爆投下から数年たち、復興のなかで被害者が白眼視されつつある時期。映画は原爆の惨禍を克明に描いていく……
アスペクト比は4対3のスタンダードサイズ。『ゴジラ』を代表とする東宝作品で活躍した伊福部昭が音楽を提供。助監督のひとりに、後に社会派映画で活躍した熊井啓がいる。特殊技術のひとりは、後の『ウルトラマン』シリーズにおいて怪獣着ぐるみ制作で活躍した高山良策。
日本教職員組合、いわゆる日教組が制作したいかにも教育的な作品であるし、教師を生徒がしたう描写があるところは鼻白んだが、説教くさいというほどではない。教育することの難しさに向きあう自己批判的なつくりであることや、一方的に説明するだけの単調なつくりにしていないことが良いのだろう。
ふたたび日本が軍事化していく世相への批判的な視点もあり、一方的な被害者意識を主張するだけではない、世界に見せられる普遍的な物語になっているところも良かった。
前年に公開された新藤兼人監督の『原爆の子』と同じ原作を使用しているが、より原爆惨禍の再現を重視したという。
実際、延べ8万人を超えるエキストラが起用された群衆の痛々しさも、広大な廃墟セットも現在の視聴にたえる。ミニチュア特撮による廃墟の全景も、やや炎が大きすぎてスケール感をそこねているものの、時代を考慮すれば充分な完成度といっていい。
ただ大スケールのセットを漫然と映すのではないところも良かった。住宅街やコンクリート製ビルなどで廃墟の種類を変え、火災の延焼具合や群衆が川に逃げる場面の順序で被害の時系列を描写して、さらに群像劇的な被爆者の関係性も偶然と必然がありえる範囲で描いている。