『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督による、2006年の英米合作映画。ひさしぶりの無料配信を2週間。
2027年の世界は、インフルエンザと思われる感染症が蔓延し、18年前から子供が生まれなくなっていた。しかしイギリスだけは不法移民を武力で隔離しつつ秩序をたもとうとしている。
かつて反政府運動をおこなっていた公務員セオは、かつての恋人にして反政府団体FISHのリーダーとなったジュリアンに拉致される。セオの行政コネクションをつかって、ひとりの女性の通行証を入手するために……
オーソドックスな近未来ディストピアSF小説を、イギリス映画らしく陰鬱に映像化。
直前に担当した『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で児童向けファンタジーシリーズをシリアスタッチに変更した監督の手腕が冴える。
『ゼロ・グラビティ』で見せた驚異の長回しの原型も確認できる。希望の持てない灰色の生活から、激しいテロ活動がはじまるまでを、カットを割らずに表現。実際は複数のカットをつないでいるが、カメラワークも色調もスムーズで違和感がない。まるで現場にいるような感覚でアクションを楽しめる。
細かいVFXも自然で、停滞しながら技術が発展した近未来らしさがあるし、戦車までもちだした戦闘も迫力充分。
SFとしては古典的な内容で、敵味方が争奪する存在も意外性はない。
しかし、あえてシンプルなわかりやすい設定*1にしたのだろう。つくりこんだ近未来世界をジェットコースターのように体験していく作品と思えば、これはこれで正しい。
主人公は巻きこまれただけで、その場しのぎで行動するだけだが、争奪目標がはっきりしていて、その重要性もSF設定から理解できるので、どれだけ状況が混乱しても物語についていけなくなることがない。
それに、世界的な感染症の蔓延と秩序崩壊、それを防ごうとして排外主義にはしる国家……古典的な世界観でありながら、だからこそ新型コロナ蔓延下の現代を正確に予見している。
映像的な面白さは充分あるし、偶然にも現在にかさなる世界観も興味深く、いま見る価値がある佳作だ。