スタンリー・キューブリック監督が絶賛したという1988年のオランダ映画。終了間近だが初無料配信が字幕のみで一ヶ月。
オランダからフランスへ自動車で長旅に出た若い男女。たわいもない遊びでもりあがったかと思えば、つまらないいさかいで衝突もする。そして女が消えた。
三年後、妻を追いつづけていた男のもとへ奇妙な手紙がとどく。それは女をつれさった犯人のものだというが、信じられる証拠は何もない……
小説『ゴールデン・エッグ』を原作とした映画で、本国では1988年に上映されて絶賛されたらしいが、日本では2019年にリバイバルで初上映された。
ジョルジュ・シュルイツァー監督は1993年にハリウッドで自己リメイクした『失踪』という作品も撮っているが、あまり評価は高くない様子。
あまりミステリらしい真相の意外性などを売りにする作品ではないためだろうか。古くはヒッチコック監督の『バルカン超特急』、近年はジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』など、人間がこつぜんと消えた謎を解いていくサスペンスは数多いが、これはそういう映画ではない。
妻が消失する直前に真相をうかがわせる描写があるし、失踪確定後に犯人の日常生活や犯行計画をたてる回想が長々と描かれていく。
どちらかといえば、事件や犯人を自然に映して、ごく一般的な日常でさりげなく異常な犯罪がおこなわれる、そうしたサイコサスペンスとしての先駆性が見どころだ。
おそらくセットをほとんどつかわず、自然光でロケ撮影した自然な照明。手ぶれカメラや主観視点もつかった撮影。ドキュメンタリータッチで加害者と被害者の姿を切りとっていく。
そして犯人の計画をていねいに見せながら、つれさった妻をどうしたのか決定的な場面はまったく見せないことも効果的。
妻をさがしている男に犯人が接近し、いったい何が起きたのか知りたいかと問いかけ、交渉をもちかける。
そこから男と犯人の奇妙な同行がはじまり、雰囲気が弛緩していくが……ただひとつ残されていた謎が解ける瞬間の恐ろしさは忘れがたい。
その恐ろしさも直接的な描写より、観客の想像力を喚起する間接的な描写だ。それゆえに映像として古びず、時代を超えて通用する。