2018年公開の、アリ・アスター監督の初長編作品。もう終了間近だが、初無料配信が吹替と字幕で3週間。
ミニチュアハウス作家の女性アニーは、老いた母を弔ってすぐ、個展のためのミニチュア制作にいそしむ。しかし毒親だった老母の幻影を見たり、どこか生活に違和感をいだいていた。
ある日のアニーは、男のように育てられた幼い娘チャーリーを、長男ピーターの学生パーティーにつれていかせる。そこでさらなる悲劇が家族におそいかかった。心がたえられなくなったアニーは、カウンセリングで出会った女性をたよるが……
次作『ミッドサマー』が大成功したアリ・アスター監督の長編デビュー作にして出世作。
無言でたたずむ死者の恐怖演出は完成度が高く、どこまで関係者の幻覚なのか妄想なのか判断できない展開もオーソドックスによくできている。もともと病に苦しんできた家族にくりかえし悲劇がふりかかる苦難は聖書のようだ。
何よりアニーを演じたトニ・コレットの怪演がすさまじい。恐怖を感じる側として、恐怖を与える側として、ゆがんだ表情でけたたましい悲鳴をあげつづける。
中盤の西洋型コックリさん体験から、ホラー映画としてのジャンルが確定していく。そこからは五里霧中の恐怖ではなく、あくまでフィクションの滑稽と紙一重の脅威がせまってくる。
しかし主人公をとりまく陰謀の根深さ、壁一枚へだてたところに隠された不快には、ジャンルを理解してなお恐ろしさがある。ショック演出も斬新なビジュアルが多くて最後まで新鮮に観ることができた。
ただひとつ残念なことに、先述した聖書を反転したような真相は、おそらく日本の観客では充分に制作者の意図した恐怖を感じられないだろう。そこは想像で理解を補うしかないか。