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美しく小さな峡谷だからこそ、逃げられない大きな災害『ザ・ウェイブ』(01:45:02)配信期間:2021年10月9日~11月8日

地味に映像技術の向上をつづける北欧の、リアリティのあるディザスター映画。字幕と吹替で2度目の無料配信。

gyao.yahoo.co.jp

峡谷の調査から石油会社に転職した地質学者のクリスチャン。小さなホテルでフロントをつとめる妻をのこして、娘と息子とともに引っ越し先へと向かう。

しかし港についたクリスチャンは直前の仕事場で見た異変が、災害の前兆であることに気づく。しかし周囲の説得に成功せず、クリスチャンは無人の自宅にもどるが……

 

2015年のノルウェー映画。両側を急勾配の山岳にはさまれたフィヨルド地形。その風光明媚な観光地を舞台にした津波災害を映像化。

舞台を小さくすることで制作リソースが不足せず、リアリティをたもったまま前兆の観測から災害による激動まで描ききった。

人々が波にのまれていく場面などで、いやおうなく東日本大震災を思い出す。PTSDを起こさないよう注意して視聴してほしい。

 

家族愛はハリウッドのディザスター映画を思わせる定番だが、全体として静謐で怜悧。災厄の予兆をつみかさね、その情報を専門家が先送りしてしまいながらも、淡々と静かに生活を送っていく。

専門家が前兆をとらえるくらいには優秀でありながら、観光資源を考慮して警告をためらうあたりが『ジョーズ』のようなパニック映画の定番であり、新型コロナ禍の現在にも重なりあう。

前兆をとらえながらも崩落がいつなのかわからないサスペンスから、崩落により津波が発生しておそってくるまでの短時間のサスペンスへと、タイムリミットの性質を変えることで観客が緊張に飽きない展開もよくできている。

調査するための人員や装備が明らかに少なかったり、逃れるためのルートが足りなかったり、舞台が小さいことがハリウッド大作には珍しい困難を生みだしているところも興味深い。

 

先ほどまで会話していた相手が生々しい死体になっている恐怖や、ところどころの異様な後味の悪さが北欧映画らしい。水中に俳優がもぐっての息苦しい芝居も、薄暗く冷たさを感じさせる。
VFX技術の高さも印象的。ところどころデジタル臭さは感じたものの、かなり精緻なCGをつかっていて、限定された舞台でもさまざまな状況を用意して情景が変化にとむ。岸壁やホテルなどのセットの巨大さ、それが災害で一変した姿も見ごたえあった。

 

やや後半の展開はハリウッド映画でもよくある家族重視の周囲軽視という問題を感じなくもない。

主人公が異変の前兆に気づいたため災害にたちあうはめになったり、それが家族を結果的に巻きこんでしまっていたり、それが後半に犠牲を拡大したかのように感じさせたり。一応よく見れば主人公の家族がいなければ早く犠牲になった可能性も高いとわかるが、もう少し全体の歯車をきちんとかみあわせてほしくはあった。

しかしその後半の展開も独特の閉塞感があって、ハリウッド映画にはない個性がある。このジャンルが好きであれば見て損はない。