巨匠ケン・ローチ監督による、2016年のイギリス映画。カンヌ映画祭の最高賞を受けた傑作を、2週間無料配信。
心臓病をわずらい、主治医から仕事を止められている大工のダニエル。
しかし国から委託された査定業者は労働可能と判断し、ダニエルは職探しのための支援しか受けられない。
腕利きの大工だがデジタル技術にはついていけず、苦労して無意味な履歴書をつくっては、働けるはずもない職探しを形式的につづける……
無意味な手続きで市民を福祉から遠ざける国家。そんな不条理を淡々と描く。
BGMはほとんどなく、奇をてらったカメラワークもない。場面が終わるごとに余韻を断ち切るように映像がブラックアウト。観客の感情を派手な演出でもりあげることを徹底的にさけて、選択肢と視野がせばめられていく人々の苦しみによりそう。
ロンドンから引っ越してきたシングルマザーの隣人を助けながら、ダニエルは力不足を痛感し、尊厳が削りとられていく。個人の優しさが手をさしのべる瞬間もあるが、お役所仕事の不条理をはねのけることはできない。
それでもダニエルは苦しみをかかえながら、ふりしぼるように声をあげる。「わたしは、ダニエル・ブレイク」と。記号ではなく、ひとりの人間だと……
『万引き家族』『ジョーカー』『パラサイト 半地下の家族』といった、競作するかのような動きの初期につくられた傑作として、味わい深い。
後の作品群がフィクショナルな設定を活用していたことに対して、どこまでも現実の今ある苦しみによりそったことが逆に個性的。
フードバンクなどのイギリス特有の制度もていねいに描写され、ドキュメンタリーを見るような興味深さもあった。