1976年のイギリスとイタリアの合作サスペンス映画。コロナ禍の今に見ると、また違った味わいがある。約一ヶ月無料。
ソフィア・ローレンが作家を主演して、元夫の高名な医師と協力し、解決への努力をつづける。
イギリス映画らしい淡々と抑制されたサスペンスがつづくなか、ふいにイタリア映画らしいショッキングな情景が展開される。
全てを秘密裏に収拾しようとする超大国の思惑という外枠と、感染が疑われる一般客がどのように個人としての尊厳を守るかという内枠。
疾走をつづける列車を主軸として、同時進行するドラマは動きを止めず、刺激的な場面こそ少なくても中だるみしない。主な舞台が限定されているおかげで、登場人物がいりみだれても物語を追いやすい。
大国の思惑で動く軍人も、幼稚な犯罪者も、善悪の両面がある。特に、軍人の陰謀が直接的に手を下す方法とは違って、一種の確率的に期待するだけというあたりにリアリズムがある。
理想を目指して一定の成果をはたしつつ苦味を感じさせる結末も大人な雰囲気だ。全てを闇に葬ろうとする側もしょせんは権力の駒でしかないし、しかし生き残った個人が真実を広められる可能性も残されている。語りすぎない結末が味わい深い。
現在から見るとテンポはゆるく、アクション描写も牧歌的だが、当時の美しいヨーロッパの風景を切りとった映像は、現在では新たな価値がある。
ほとんどBGMを鳴らさず、実景の空撮と実物大のセットを活用した映像は、今見てもあまり古びていない。
さすがに終盤に合成が明らかな場面もあるが、つづけてスタントマンが命がけのアクションをおこなったり、ミニチュア特撮も巨大かつ精密な作りで、これはこれで時代を感じさせて楽しい。