2013年の事件を2016年に再現した米国映画が初無料配信。字幕と吹替の両方が約1ヶ月。
監督と脚本はポンコツ大作SF映画『バトルシップ』で一部の愛好家がついたピーター・バーグ。
もっともフィルモグラフィーを見れば『バトルシップ』こそが異端であり、全体としては実話にもとづく真面目なサスペンスドラマを堅実に作ってきた映像作家である。
アフガニスタンでの暗殺計画に失敗して孤立した米兵を描いた『ローン・サバイバー』や、メキシコ湾原油流出で初期に起きた火災事故をピックアップした『バーニング・オーシャン』などが本来の代表作だろう。
この『パトリオット・デイ』も、「愛国者の日」という記念日におこなわれるマラソンに向けて、準備をしていく市民を多角的に描き、当日の爆破事件からはシステマックな捜査を展開し、激しい銃撃戦も抑制された演出で描いていく。
BGMは穏やかで、無闇に激高する場面もない。家族や隣人とのドラマも必要充分に抑えられている。工場のように広々とした空間に捜査本部が設立され、遺留物から事件を再現していく場面など、良い意味で『シン・ゴジラ』を連想した。
テロリストはイスラム関係者だが、イスラムへの偏見を生まないよう登場人物が慎重に動き、イスラム関係者の協力をえているのもいい。差別に加担しない真面目さが、捜査が先入観にとらわれないことにつながり、関係者が有能に見える。
実際、テロリストはアラブのテロリストの扇動にのりつつも、かなり独自の世界観で動く陰謀論者だった。実話にもとづくからこそ斬新なキャラクターになっている。約100時間で逮捕に成功したのも、その場の勢いで行動する愚かさに助けられた側面も大きい。
せまい住宅街でおこなわれる銃撃戦も、米国の大作映画とは思えない絶妙な地味さが新鮮だった。
簡単に弾が命中することはないし、手製爆弾による爆発でも簡単にふきとぶことはない。物を投げれば当たる距離から正面から拳銃を撃ちあって、しかしどちらも命中しないなんて場面もある*1。
緊迫した場面で顔を出したがる住人や、冷静に状況を見極めて犯人の捕縛にいたった老警官など、登場するキャラクターも個性的で、ここだけでも一見の価値はある。
生存者や協力者と捜査関係者を賞賛し、影はまったく描かないが、それでも立場や意見の違いで群像劇を成立させている。
ボストンへの愛郷心をうたう文字通り「パトリオット」の物語ではあるが、よくできた映画であることも間違いない。
*1:拳銃の有効射程距離は10メートルより短いともいい、それを知っていればリアルな描写でもある。