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テロリズムに身を投じる青年をとおして、パレスチナ視点でパレスチナ問題を映すサスペンス2本立て『パラダイス・ナウ』(90分)『オマールの壁』(98分)配信終了:2018年5月31日

イスラエル出身のパレスチナ人、ハニ・アブ・アサド監督による、出身地題材にした等身大のテロリズムの傑作サスペンスが緊急無料配信。

www.uplink.co.jp

社会派の問題作を配給することで知られるUPLINKが、イスラエル軍による5月14日の無差別攻撃を受けての無料公開だという。

 視聴にはVIMEOのアカウントを登録する必要があるのと、上記ページに書かれたクーポンコードを入力する手間がいる。

映画会社、特に外国においてはYOUTUBEよりも好まれているVIMEOだけあって、映像は安定している。

 

パラダイス・ナウ』は兄弟が「自爆テロ*1にいたるまでの2日間を描く。

2005年に公開され、アカデミー賞外国部門ノミネートやベルリン国際映画祭観客賞などの高評価を受けた。

パラダイス・ナウ

映画の冒頭で、兄弟は自動車を整備して、依頼主と口論する。依頼主はバンパーがかたむいているといい、兄弟はまっすぐだという。水準器をバンパーにおくとかたむきが検出されるが、地面がかたむいていて錯覚だったとわかる。それでも納得しない依頼主と口論した果てに、兄弟はバンパーを壊してかたむかせる。パレスチナ問題のアナロジーというべき一幕だ。

冒頭で確認できるように、兄弟はやや乱暴で頑固だが、必ずしも狂信的な人間ではない。しいたげられた土地で生きている等身大の青年だ。自爆でつたえるためのメッセージを組織に撮影される場面もコメディチックだ。

自爆がうまくいかずに中断したり、悩みをかかえたりもする。なぜ自爆しなければいけなかったのか、それを観客に問いかける。

目に見えて低予算映画なので、激しい銃撃戦や手間のかかる爆破シーンがあるわけではない。それでもサスペンスらしい緊張感は存分にある。実際のパレスチナ暫定自治区でロケした風景の、風光明媚なイスラエルとのコントラストが、映像の強弱をつくりだして飽きさせない。

 

『オマールの壁』は、イスラエル軍へ対抗しようと銃を手に取った青年3人の、混迷の果ての顛末を描く。

2013年に公開され、やはりアカデミー賞外国部門ノミネートされ、カンヌ国際映画祭ある視点賞などを受けた。

映画『オマールの壁』公式サイト

前作よりも予算がついたのか、ぐっと登場人物が増えて、イスラエル軍の描写や銃撃などで撮影の手間がかかっている。

イスラエル軍にとらわれて裏切りをせまられる主人公から、さらに二転三転する裏切りの連続に、よくできたスパイ映画のおもむきがある。純粋にサスペンス映画として完成度が増しており、ただの娯楽作品を望む観客でも満足できるだろう。

もちろんハリウッド映画に比べれば相当な低予算だと思われるが、複雑な地形を走りまわるパルクール*2を活用した演出など、アクション映画としても見せ場が多い。

www.youtube.com

 

*1:監督は「自爆攻撃」という表現を望んでいるという。映画の内容にふれながら、日本の特攻との相似を指摘するコメントが公式サイトに掲載されている。パラダイス・ナウ

*2:建物さえあれば肉体ひとつでおこなえるパフォーマンス的スポーツであるため、廃墟化したパレスチナで若者に親しまれているという。ガザのパルクール、9月ベストフォト | ナショナルジオグラフィック日本版サイト