『史記』に題をとり、老いた劉邦が、漢の初代皇帝にのぼりつめるまでの回想を描く。2週間無料配信。
チベットカモシカの密猟者と保護者の闘争を描いた『ココシリ』で知られる陸川監督が、製作と脚本もつとめた。
秦を倒して中華の新たな支配者になりあがるという物語だが、あまりスケールの大きさを感じさせる映画ではない。
もともと器の小さな人間で、老いて誰も信じられなくなった英雄が、過去に縁があった人々を思う、しっとりと静かな歴史劇だ。
その回想の中核となる鴻門の会で、項羽や韓信といったメインキャラクターが集結するのもいい。そして最後に明かされる真実で、劉邦の人生のすべてが「鴻門の会」だったと思い知らされる。
中国映画の大作にありがちな大味さがなく、しみじみと失われた青春の後味をかみしめる良さがあった。
いくつかVFXの見せ場もあるが、大規模な戦闘シーンは描かない。歴史に名を残した人々の数奇な運命を、思惑の衝突として描いていく。
しかし屋外ロケの風景は雄大で、さまざまなセットも情景を成立させる完成度はあり、画面がせまいとは感じさせない。
また、国内の個人情報を集積した秦のシステムは、あたかもサイバーパンクSFを歴史劇として展開したような面白味がある。その個人情報のありようが物語にかかわってくる展開など、まるで紀元前のインターネットのようだ。