高樹のぶ子の自伝的小説を、2009年に映像化した作品。公開は小規模で興行はふるわなかったが、地道にファンを集めて、『この世界の片隅に』のヒットにつながった。
工業都市に近い田舎を舞台として、少女ふたりの小さな出会いと、ままならない日常を前向きに生きていこうとする人々が描かれる。
よく取材された風景を、淡々とした語り口で見せていき、少しずつ抒情的に盛りあげていく構成は『この世界の片隅に』の原型といっていい。
もちろん、この作品独自の良さはある。子供だけのガーリィでリリカルな世界観と、幼い立場なりに大人の世界に向きあおうとする気高さがあった。空想癖のある主人公が無双する平安時代の風景と、現在の風景が重なりあっていく情景も美しい。
制作は、片渕監督のTVアニメ『BLACK LAGOON』でも知られるマッドハウス。その丸山代表が新しくつくった会社MAPPAで『この世界の片隅に』が制作されたという流れだ。
もともと片渕監督は日本アニメーションの世界名作劇場やスタジオジブリで腕をならした演出家であり、軍事マニアではあったものの『BLACK LAGOON』を監督したのは例外的だった。