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屋敷の頂点で死んだ富豪と、遺産をめぐる「家族」のミステリ『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(02:10:12)配信期間:2022年4月29日~5月28日

ライアン・ジョンソン監督による、2019年の米国映画。初無料配信が字幕と吹替で一ヶ月。くわしくは後述するが、字幕での視聴をすすめる。

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高齢のミステリ作家が豪勢な自宅の最上階にある一室で死体となっていた。警察は自殺として処理するが、何者かに依頼された私立探偵が事件に介入する。

その日、ミステリ作家の子供や孫たちはいつものように衝突していたという。ミステリ作家につきはなされ、それが殺害の動機になった者も複数いた。

そしてミステリ作家につきそっていた移民の若い看護士に、私立探偵は目をつける。少女は看護をするだけでなく、友人として囲碁の対局などもおこなっていた……

 

2017年の『スター・ウォーズep8 最後のジェダイ』ではシリーズファンから現代性を評価されたが、少なくない批判もあびたライアン・ジョンソン監督。

今回も脚本をつとめつつ、製作まで兼任。奇妙な館を舞台にした、古典的な本格ミステリを思わせるオリジナルサスペンスを完成させた。

あくまで現代社会のドラマだが、遺産相続争いも横溝正史的なミステリを思わせる。同時に移民の少女を事件の中核において、現代の問題を反映した社会派サスペンスらしさもある。

台詞で「ネトウヨ」や「パヨク」という訳語がつかわれた驚きも印象的。それはただ流行り言葉を翻訳者が引用しただけではなく、そうした左右の思想どちらも内心では移民を見下しているのではないかという問題意識がストーリーと密接にむすびついている。

またそのように思想的な立場も、それによる服装の差異なども明確なおかげで、群像劇的な外国映画なのに登場人物を見わけやすいことも良かった。

 

謎解き映画を鑑賞する時は、映像の手がかりを重視するなら字幕に目をうばわれないよう吹替が、台詞の微妙なニュアンスをとりこぼさないためには字幕が向いている。

いかにも奇妙な構造の館を舞台にして、「隠し扉」のような物理的なトリックも事件に深くかかわるが、必要なビジュアルの説明は謎解きより早くおこなわれる。この作品の伏線は台詞を細部まで認識しておかないと謎解きにおいて納得しづらい。それゆえ、冒頭で書いたように字幕で鑑賞するのが向いている。

 

謎解き自体はそれほど難しくない。「看護士」が事件の中核に存在することは中盤で判明して、中盤からは「倒叙ミステリ」として物語が進行する。「被害者」から「指示」された「看護士」がどこまでうまくやれるかがという方向のサスペンスが終盤までつづく。

もちろん「倒叙ミステリ」として進行した物語はそれだけでは終わらず、中核の「さらなる中核」に隠されたものが最終的に暴かれる。いったん描かれた事件をなぞるような「二重構造」ゆえに見ていて理解が追いつかなくなることがないし、なおかつ微妙な違和感が細部まで解明される爽快感もある。

つらぬいた良心がすべての悪意に打ち勝つという教訓も、説教くさくなく胸に落ちる。社会派テーマとスリリングな謎解きが両立した佳作だ。

 

ちなみに看護士がどこからの移民なのか説明がまちまちではっきりしないが、これは翻訳のミスではないらしい。

あの子のルーツはどこにある~『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(少しだけネタバレあり) - Commentarius Saevus

たぶんこれはアメリカ人の自国中心的な地理理解がメチャクチャで、寛容を訴えるにせよ排外主義を唱えるにせよ、結局アメリカ人はどういう国から自国に移民が来ているのか、また知り合いの移民がどういうルーツを持っているか、ちゃんと真摯に学ぶ気がないという皮肉なんだろうと思う。

この指摘が正しいのであれば、ゾンビ映画『カミングアウト・オブ・ザ・デッド』の一幕のような効果をねらった描写なのだろう。

同性愛者や原理主義者や共和党支持者がドロドロになるまで争う『カミングアウト・オブ・ザ・デッド』(01:29:14)配信期間:2017年10月9日~2017年11月8日 - ふむめも@はてな

ゾンビが蔓延する前、隣の夫妻とヒロインとの会話がいい。

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民主党支持者と共和党支持者の態度が違っているようでいて、根本的に隣人を理解できていないことがあらわになっている。

 

精神科医が直面するヒッチコック風サスペンスを現代映画のよそおいで『サイド・エフェクト』(01:45:53)配信期間:2022年4月26日~5月25日

数年前から何度か配信されている2013年の米国映画。全裸のセックスシーンや流血もあるため、要ログインのR15で、一ヶ月無料配信。

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ビル街のとある一室で、流血の事件が発生したらしい。少し時間をもどして、インサイダー取引で収監された男が釈放され、妻がむかえる物語がはじまる。ふたりは家族として再生するはずが、妻は鬱をうったえて精神科医にかかり、特別な新薬を処方され……

 

オーシャンズ11』のスティーヴン・ソダーバーグ監督による精神病サスペンス。タイトルの意味は「副作用」で、新薬を処方された女性の奇妙な行動から物語が変転していく。

ロケ撮影の多用こそセット撮影を多用するヒッチコックらしさはないが、建物の空撮から一室にフォーカスしていく冒頭のカメラワークからして『サイコ』を思わせる。人生の再出発というドラマとして落ちつきそうな中間点から、がらりとドラマの方向性が変わる驚きも『サイコ』に似た構成。

詐病」と一言で説明できるシンプルなトリックの方向性は『めまい』を思わせる。早々に真相に気づく者がでてきて、謎解きを引っぱるよりも真相をどのようにあばくかが後半の要点になるところも、さらには主人公が非人間的なまでに「ミソジニー」を発揮する後味の悪さも『めまい』に近い。ついでに「犯人」ふたりが「同性愛」関係にある描写も『ロープ』だろうか。

しかしシンプルなトリックといっても細部を支える描写はていねいで、とある犯罪の動機やそれを実行するための知識の伏線は最初からしっかり存在する。謎を解いてなお解決の難しさに直面する展開も気がきいている。新薬をめぐる策謀もまた全体の構図をひっくりかえすことで驚きを増している。

淡々とした情景から驚かすショック描写の演出もうまくて、特に中盤の「刺殺」もまたカット割りや芝居が『サイコ』の有名な一幕のようで、なおかつ現代的なテンポになっている。全体が抑制されて刺激がひかえめな作品だが、序盤から一定時間ごとに刺激的な場面を挿入することで飽きさせない。

 

全体としてサイコサスペンスというジャンル名を生みだした『サイコ』へのオマージュを感じさせつつ、その「先入観をひっくりかえ」したミステリ映画として面白味があった。

歴史的な傑作とまではいかないにしても、ジャンル作品としての魅力は充分につまっている。ジャンルが好きならば見て損はない娯楽作品。

20歳が観るべきアニメ38作品のひとつ『マインド・ゲーム』(01:43:06)配信期間:2022年5月19日~6月1日

実写を素材としてとりこんだ2004年のアニメ映画。表現を知りつくした鬼才アニメーターの初監督作品。

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ひょんなことから再会した男と女。しかしヤクザに殺され、神様にやりなおしをさせてもらうことになり、時間をもどして逃走劇をはじめるが……

 

キテレツ大百科』や『クレヨンしんちゃん』のような子供向け作品のキャラクターデザインで活躍していた湯浅政明。シンプルにデフォルメされた作画に、独特としか言いようのない動きで知られていた。

ノイタミナで放映された『四畳半神話大系』でブレイクするまでは、アーティスティックなアニメ作家と思われていた。事実としてこの映画も商業的には成功せず、国内外のアニメ作品賞を受けるような通好みの作品にとどまった。

しかし中盤のダウナーな時間が長めとはいえ、この作品も娯楽としてもよくできている。異世界への転生でこそないが、神様にやりなおしをさせてもらう導入は現在ならば広く理解しやすいだろう。同性愛も差別的ではない描写がされており、社会の理解が進んだ現代でも違和感が少ない。

芸能人を多数起用しながら声の演技も違和感なく、よく動くアニメーションと奇矯なビジュアルは見ているだけで楽しい。