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韓国に限らずありふれている巨悪を、ありふれたプロットで娯楽映画化『ありふれた悪事』(02:01:35)配信期間:2021年1月19日~2月18日

モスクワ映画祭で最優秀アジア映画賞を受けた2017年の韓国映画。たしか初無料配信が一ヶ月。

gyao.yahoo.co.jp

1987年、軍事政権末期の韓国で、連続殺人事件が起きていた。

前時代的な刑事ソンジンは捜査も尋問も乱暴だが、別件でつかまえた男に新人の刑事ドンギュが目をつけ、事件の全体像が見えてくる。

連続殺人事件の捜査が進むとともに、私生活も充実していく。しかし旧知の新聞記者の横槍から、何かが崩れていった……

 

軍事政権末期の韓国を舞台に連続殺人事件を描いた韓国映画といえば、ポンジュノ監督の『殺人の追憶』が有名だろう。

殺人の追憶』は事件を現場の刑事の目線で切りとって、韓国社会の闇を背後に浮かびあがらせた。対して、この映画は明確な国家の陰謀に主人公が直面し、葛藤しながら歴史の激動に飲みこまれていく。

新人のスマートな刑事が真相に肉迫する展開も、容疑者となる知的障碍者が物語の転換点になることも、肉迫したはずの真相がこぼれおちる構造も、ふたつの映画はよく似ている。もちろん盗作ではなく、新人の刑事が「真相」をつかむ意味が全く違っていたり、前例をふまえた別展開が楽しめる。

むしろ挫折した主人公が再起するまで描いた『ありふれた悪事』は、『殺人の追憶』のアンサームービーと呼んでいいかもしれない。

 

ただ残念ながら、平凡な刑事が韓国現代史の闇と対峙するには、二時間の映画では短すぎた。

 複数の登場人物が入り乱れるため、序盤は人間関係や内容がわかりづらい。コメディチックな語り口と、韓国映画のアクション技術であえてマヌケに演出した追跡劇で楽しませはするが。

主人公が容疑者の犯行に疑問をもっていく描写は面白いが、深められないまま次の展開に移行してしまう。

結末の名も無き人々が立ち上がる展開も、序盤の大学の風景などで伏線はあるし*1、そもそも史実ではあるが、外国の観客からすると主人公のドラマと結びつきが弱い。

記者が刑事を「兄貴」と呼ぶ字幕も、誤訳ではないが血縁関係ではないことがわかりづらい。韓国では親しい人物を「兄貴分」と呼ぶことが多い。

 

1980年代の風景をきちんと再現している面白味はあるし、さまざまなアクションや陰謀劇が次々に展開される。

歴史を題材とした真面目なドラマ映画としては水準以上だろう。

ただ、もう少し内容を整理するか、群像劇にあわせて尺を増やすかすれば、もっと厚みのある良い映画になったろう。惜しい作品だ。

*1:悪の凡庸さを表現したような「普通の人」という意味の原題が、ここで反転する。