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華やかな舞台がガラスのように輝きながら砕けていく『ザ・タワー 超高層ビル大火災』(02:01:44)配信期間:2020年10月6日~11月5日

超高層ビルの火災パニックをテーマにした2012年の韓国映画。初無料配信が字幕のみで約一ヶ月。

gyao.yahoo.co.jp

全面ガラス張りの2棟が連結した、住商一体の超高層ビル「タワースカイ」。

そこではクリスマスイブの盛大なパーティーを目前に、舞台裏では小さなトラブルがつづいていた。

そして上昇気流の危険があるなか、パーティーの演出で動員されたヘリコプターが決定的なトラブルを起こす……

 

監督はキム・ジフン。これまでも光州事件そのものを初めて映画化した『光州5・18』や、韓国内だけでVFXを完成させたモンスターパニック『第7鉱区』など、大規模セットとVFXを活用してきた。

あからさまに1974年の米国映画『タワーリング・インフェルノ』を思い出させる作品で、超高層ビルが2棟つらなっているという設定も同じ。そこで当時の巨大ミニチュア特撮とは違い、3DCGでしか表現できないガラス張りの空間で変化をつけている。

さらに2001年9月11日の世界同時多発テロを意識したように、高層ビルが火災で崩落する危険が描かれる。その局面からこの作品はまったく独自の展開へ発展していく。

全体として3DCGはそれとわかるくらい露骨だが、雰囲気をたもつ最低限のクオリティはある。さまざまなセットが炎にまかれていく描写は、いちいち空間が広く、吹き抜けや階段などの構造変化で見どころいっぱい。

 

ドラマは一人娘を男ひとりで育てている管理チーフと、食堂マネージャーの女性のラブコメディを主軸とした群像劇。

宝くじに当たって住人となった司祭への説明や、主人公男女のバックヤードでの奮闘をとおして、ビルの内部構造や位置関係を自然に説明したことは素晴らしい。

ビルのスタッフも住人も消防関係者も多人数なのに、約2時間の本編できちんと個性を表現し、合流されたり分断されながら活躍と結末を描いていくシナリオのてぎわもいい。

エレベーターを軸にした悲劇から意外な機転の脱出劇など、救出の展開も多種多様で飽きさせない。

 

しかし特権階級の優遇や階層による階級表現を描くかに見えて、最終的に脱出シーンの成否だけのドラマで終わったのは残念。ビルのオーナーが権力をふるってトラブルを生み育てた問題も明確なオチはつかなかった。

主人公を活躍させるため、救出チームに参加させる場面が多すぎるのも難点。管理権限をもつ人間として必要とされる展開には説得力があったから、終盤にもそういう解除のため必要とされるだけの描写にしてほしかったところ。

消防隊が火元を鎮火しようとする中盤で、炎があふれる空間なのにガスマスクを外して行動した場面に、俳優の顔を見せるビジュアル優先を感じたことも疑問。その場面ではさまざまなトラブルが発生しているのだから、ガスマスクが割れたり落としたりして失われる場面を入れればよいだけなのに。

説得や別離の会話がどれも長いことも、感動を優先してシチュエーションを無視する演出に見える。時間経過の説明を見返すと必ずしも不合理ではないのだが、ちょっと鼻についたのが正直な感想だった。

 

全体としてパニック映画として21世紀に求められるクオリティは充分あり、エンタメとしての完成度は高いが、そのためにリアリティがけっこう犠牲になってしまった。こういうジャンルが好きなら見て損はないとは思うが……