アウシュビッツのユダヤ虐殺を題材にしたサスペンス。2015年の加独合作映画が一ヶ月無料配信。
一週間前に妻が亡くなった記憶すらすぐに失ってしまう、認知症の老人ゼヴ。同じ介護施設にいるマックスから手紙をわたされて、老体にむちうつように4人の虐殺容疑者を訪ねていく……
さまざまな社会派テーマで謎解きサスペンスを展開するアトム・エゴヤン監督の最新作。
復讐のために危なっかしく行動する主人公を、まるで初めてのおつかいをする幼児を見守るように楽しむのがいいだろう。
近年は批評家の評価がかんばしくないエゴヤン監督だが、新人によるオリジナル脚本を映像化した今作はひさしぶりに高評価をえた。
サスペンスとしてはシンプルな一本道のストーリーだが、主人公が老人という設定のため移動したり会話するだけでも危うさがあり、ナチス容疑者だけでなく引き止めようとする家族も旅の障害になり、さらに旅の目的を自分で忘れてしまう問題もふりかかる。
認知症のため主人公へ教えるかたちで説明も自然になる。サスペンスとして新鮮な問題が次々に主人公へふりかかるので、中だるみもしない。
しかし実は「主人公」の設定を知った時点で「主人公」こそ「虐殺者」という真相には見当がついていた。容疑者を捜査することは「主人公」にナチスの罪悪を「被害者の立場で痛感」させる意図があるのだろう、ということも予想できた。
容疑者が「犠牲者のふりをしてアメリカにわたった」と物語の序盤で説明された時点で、この推理は確信に変わり、後は答えあわせをするような気分だった。
そういう意味では、作品の紹介文などで「衝撃の真実」などと「どんでん返し」を「予告」すること自体、観客が素直に「驚けなくする」問題があった。先入観なく鑑賞したかった作品だ。
念のため、そうした推理が的中しても、主人公の旅路を追いかけるサスペンスとしては成立しているので、見て損はなかったのだが……