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全裸徘徊日本人によって韓国の山村が恐慌におちいっていくが……『哭声/コクソン』(02:36:03)配信期間:2019年8月3日~9月2日

2016年に公開され、謎めいた日本人を演じる國村隼の恐ろしさで話題になった韓国映画。字幕と吹替の両方が、一ヶ月にわたって初無料配信。

gyao.yahoo.co.jp

タイトルは叫び声という意味であり、舞台となる実在の地名「谷城」と同音であり、くしくも「國村」の音読みと同じである。

監督は、9月3日より無料配信予定の犯罪サスペンス『チェイサー』が絶賛されたナ・ホンジン。謎の凶悪な殺人事件が連続する村で、人々がパニックに陥っていく、寓話的なホラーを完成させた。

ホラーでは吹替のほうが共感をもって楽しみやすいが、今回は日韓のディスコミュニケーションを楽しむために字幕で鑑賞するのが良いだろう。

 次々にイベントが発生するだけでなく、笑いや悲しみも適度に散りばめられていて、映画の雰囲気も変化していくので、2時間半を超える時間いっぱいを楽しめる。

 

シッチェス・カタロニア映画祭で撮影賞を受けただけあって、薄汚れた山村は生活感が出るように念入りに小道具が配置され、美しい山岳の風景とあわせてカメラがていねいに切りとっている。

そんな山村で、犯人が異なる家族内の惨劇がくりかえされる。いかにも韓国映画らしく湿度の高い残酷なシーンがつづくが、実際は殺害の瞬間はほとんど描写されず、観客の想像力を刺激するように恐怖を演出している。おかげで配信も(R15)ではなく、全年齢で視聴できる。

そして物語は謎めいた、答えのはっきりしない展開がつづく。最初は超自然現象のかかわらないサイコサスペンスにも見えるし、いかにも怪物的な存在があらわれたかと思えば夢オチだったりする。さらに毒キノコで人々が錯乱するという噂も流れて、なかなかオカルトホラーとは確定しない。

やがて祈祷師が登場してトンデモ呪術バトルが始まり、主人公の警官は謎の日本人を物理的に追いつめていくが……

 

クライマックスで誰を信じればいいのか主人公も観客も選べなくなるが、最終的に誰が真実をいっていたのかは、ほぼ確定していると考えていいだろう*1

しかし罪人が誰であったかは、最後まで確定はしない。……いや、それでも対立しているはずの存在が、主人公が罪を負っているという意見だけは一致している。

怪しい隣人を疑うこと。よそ者の外国人を疑うこと。ホラー映画として珍しくない発端が、物語が進むにつれてゆるがされていく。誰かを疑うことそのものが、自分で自分を惑わせているということなのだ。

韓国映画で日本人が怪しい隣人として設定された意味がここにある。

 

日本語が少しできて、國村との通訳をおこなった青年が「助祭」であること。

クライマックスの直前で見あげた「十字架」にかかっている「キリスト」が國村と同じ「全裸にフンドシ姿」であること。

主人公に追われた國村がおそらくは思われたとおりに「一度死んだ」と仮定すれば、クライマックスで「復活」していることにつながると思えば、國村の位置づけは明らかだ。

それは破裂寸前に見える現在の日韓関係にも重なるし、もちろんその二国だけにとどまらない普遍的な寓話としても成立している。

 

また、答えがはっきりしない映画は、ホラーであっても怖さより意味不明さが強くなりがち。

しかしこの映画は主人公の警官が、娘を守るという個人的な動機で一貫して行動しているので、他の描写に矛盾を感じても物語を追っていける良さがあった。

*1:ただし全て幻覚だという“現実的”な考えも、村の外での客観的な評価としては残っている。その解釈も、たしかに絶対に成立しえないわけではない。明確な超自然現象は、基本的にひとりでいる時にしか発生していない。「倒しても倒しても襲ってくる」男も、男自身が「錯乱」していると考えれば「痛覚を失った」状態と解釈できる。