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STAP細胞以前に韓国で発覚した捏造事件を、正面から娯楽映画化『提報者 ~ES細胞捏造事件~』(01:54:02)配信期間:2018年10月14日~11月13日

2014年の韓国映画が、初無料配信。告発者の苦悩と、捏造者の葛藤を描きながら、堂々たるエンターテイメントにしあがっている。

gyao.yahoo.co.jp

2005年に発覚したファン・ウソクのES細胞捏造事件。厳しい査読で知られる科学雑誌Natureに論文が掲載され、ノーベル賞に近いとも評され、国の期待を一身に背負った人物であった。この映画はそれを検証したTV局の立場で劇映画化している。

 監督のイム・スルレを検索すると、他にはオムニバス映画ばかり撮っているようだが、この長編映画は堂々たる完成度。捏造が最終的に発覚することが観客に明らかにされていても、取材陣が本当に真実をつかむことができるのか、手に汗握るサスペンスとして成立している。

 

まず、捏造者の人気は高く、人間性も素晴らしく見える。その虚飾を利用するため周囲や権力者は必死で守るし、難病を解決する希望に人々がすがりつく。だから告発者もTV局も、なかなか証拠をつかむことができないし、検証すること自体が批判をまねく。

また、捏造者は名声や金銭のためだけに捏造したわけではない。研究者として期待にこたえられないことを隠すために捏造していた。かつては真摯な研究者であったため、実話と同じく、真実の研究成果も存在していた。それが全てを捏造と思いこんでいた告発者と取材陣の足をすくい、逆境におちいらせる。

 

国民に真実を伝えようとする取材陣が、その国民によるデモで激しく批判され、上層部からも圧力をかけられる姿が痛々しい。

それでも主人公は、ジャーナリストの仕事は国民の支持を集めることではなく、国民が判断する材料を示すことだと理解している。だからこそ偽りの甘い夢を見せる捏造者は退けられなければならない。

少しずつ材料を集めて、証言が一進一退しながら捏造者が何をしたのか、全体像をとらえていく。その過程が謎解きとして素直に面白いし、モデルとなった事件の内容も自然と理解できる。

そして真実と国益の二択ではなく、真実こそが国益だと信じて取材をつづけたジャーナリズムをたたえて、映画は前を向いてしめくくられた。

 

日本の観客としては、細胞の盗難や画像の複製のような捏造から、インターネットの検証で形勢が逆転するところまで、捏造にとどまらずSTAP細胞に酷似していることが印象に残る。

kotobank.jp

かつて韓国ES細胞捏造事件が発覚した時、韓国特有のナショナリズムによる問題であるかのように受け止める意見が日本にあった。しかし韓国は検証する報道があっただけでなく、国家的に熱狂した反省をこめた映画化ができて、それが観客に受けいれられてヒットした。

日本でも同じように、権力にあらがって真実を追及したジャーナリズムをたたえる作品が生みだせるだろうか? 日本の映画界も生みだすことができると、この映画の登場人物のように信じたい。