ふむめも@はてな

フリームービーメモ。GYAO!、YOUTUBE、バンダイチャンネル、ニコニコ動画、等々で公式に無料配信されているアニメや映画の情報や感想

同性愛者や原理主義者や共和党支持者がドロドロになるまで争う『カミングアウト・オブ・ザ・デッド』(01:29:14)配信期間:2017年10月9日~2017年11月8日

2009年に公開されたケヴィン・ハメダニ監督作品。ちょっと古い感じのゾンビ映画を、その社会派テーマまでふくめて現代的にアレンジ。以前にも何度か無料配信された*1

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シアトルの小さな島にゾンビが打ち上げられ、少しずつ感染が拡大。真夜中になって街はパンデミックにおちいる。そして人々は疑心暗鬼から、もともとあった対立をむきだしにしていく……

 

スピーディーでセンスの良くなったゾンビ映画の潮流に反するように、出てくるゾンビは古典的。顔の皮膚をはいだり、臓物を食い散らかしたり、動きは遅かったり……

特色としては、アメリカのさまざまな階層の対立や偏見が風刺されているところ。偏見を色濃く残す田舎でありつつ、若者は先進的な気風をもっていて、それがドラマとなっていく。

ギャグとして笑えるかはともかく、味わい深い描写が多い。特に、ゾンビが蔓延する前、隣の夫妻とヒロインとの会話がいい。

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民主党支持者と共和党支持者の態度が違っているようでいて、根本的に隣人を理解できていないことがあらわになっている。監督は名前からしてイスラム系らしく、ここは実体験からきているのかもしれない*2

それでいてゾンビが蔓延した後、夫妻はそれなりに良心を見せる。夫がなぜ愛国にのめりこんで見せねばならなかったか、いろいろな背景を感じさせる情報も出てくる。

 

教会に逃げのびた後、キリスト教原理主義者が同性愛者を救おうとするからこそ、同性愛者を傷つけ始める展開もおもしろい。

登場人物は他者への偏見にまみれているし、家族間では言い争ってばかりだが、ひとりひとりは意外なほど良心を発揮して、差別よりも家族愛を重視する。

だからこそ、その良心を差別や偏見が台無しどころか逆効果にしていく風刺性が印象に残る。

 

もちろん、真面目に見るだけではつまらない、古典的な俗悪ゾンビ映画の再現としてよくできた娯楽作品だ。素直に楽しめればそれはそれでいい。

*1:

『カミングアウト・オブ・ザ・デッド』(01:29:14)配信終了日:2014年9月18日 - フリームービーメモ@はてな

*2:イスラム差別への風刺は映画の全体をつらぬいていて、劇中ではゾンビウイルスの主犯としてイスラム系テロリストの存在が指摘されるのだが、報道で映る演説にはウイルスをまいたと明言する台詞がなく、無関係な主張を誤読しただけではないかと思わせる。その演説するテロリストを演じているのが監督自身。

敵味方にわかれた兄弟愛にしぼってTVアニメを再編集『劇場版 六神合体ゴッドマーズ』(01:37:30)配信期間:2017年10月13日~2017年1月3日

6体のロボットが合体する、1981年のTVアニメを、女性人気を受けて1982年に映画化。初無料配信を2週間。

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横山光輝による、異星人が地球人を裁定するためにロボットをおくりこむ漫画『マーズ』。遺跡をモチーフにしたロボットデザインと、あまりに印象的な結末は、いまなお前衛的に感じられる。

そのような漫画を原作としながら、幼少時に地球におくりこまれた異星人が地球側につく部分と、一部のネーミングだけを活用して、ごく普通のロボットアニメとして展開したのが『六神合体ゴッドマーズ』だった。

もちろん侵略異星人の一部が地球側の反抗手段となる設定だけなら1977年の『超電磁マシーン ボルテスV』などの先例があるわけで、さほど斬新なTVアニメではなかったのだが、本橋秀之による美形なキャラクターデザインと担当声優がアニメファンに受け、金田伊功の流れをくむロボットアクションも評価が高く、当時は大人気となった。

 

そして女性ファンの人気を受けて制作されたのが、この映画というわけである。今ならばクラウドファンディング映画で見られるような、署名活動に参加した女性ファンが長々とクレジットされるエンドロールがすごい。

映画そのものは、人気の高い兄弟愛にストーリーを集約したことが、映画としてのまとまりの良さを生んでいる。主人公のマーズまわりの地球人メンバーの描写が少ないことで異星出身の孤独がうかびあがり、疑似的な父に洗脳されてマーグが襲ってくる流れもわかりやすい。

TV版でも合体後にほとんど動かず、必殺技を出す状態にすぎなかったゴッドマーズを、劇場版ではクライマックスで初めて合体させるという改変も悪くない。ロボットの姿で物語の連続性を強めつつ、合体による逆転の爽快感を高めていた。

さすがに今となっては作画も物語も古いが、時代性を考慮すればひとつの物語としてTV版を知らずとも楽しめるだろう。

後に藤原竜也主演でリメイクされた韓国映画『殺人の告白』(01:59:49)配信期間:2017年10月10日~2017年10月23日

2013年に公開された、実話から着想したアクションサスペンス。日本で『22年目の告白-私が殺人犯です-』として2017年にリメイクされた。

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女性をねらった連続殺人の時効となる17年後に、イ・ドゥソクという男が犯人として名乗り出る。注目をあびるなかで事件の詳細をしるした手記を出版し、ドゥソクの整った風貌とあいまって、ベストセラーとなった。

一方、事件を追いつづけて身近な者を失っていた刑事チェ・ヒョングは、17年前に最後に起きた失踪事件に注目していた。ドゥソクの告白と称する手記では、その失踪事件は連続殺人とは関係ないとされていたが……

 

題材となったのは、華城連続殺人事件と呼ばれる20世紀末の未解決事件。

同じ事件を題材とした、ポン・ジュノ監督による2003年の韓国映画殺人の追憶』は、日本の映画評論家から絶賛された。

殺人の追憶(字幕版)

殺人の追憶(字幕版)

 

『殺人の告白』は『殺人の追憶』を意識しているのか、雨が降りしきるなかで刑事が犯人を追うプロローグが似ている。手記を発表したドゥソクの風貌も、『殺人の追憶』の後半で浮かびあがる容疑者と同じく整っている。

しかし似ているのは、導入部分まで。未解決ゆえの重苦しいサスペンスとして完成された『殺人の追憶』に対して、『殺人の告白』は現実感よりも娯楽性を重視したアクションスリラーとなっている。

複数の遺族が犯人を拉致*1するカーチェイスで自動車をはいずり戦うという斬新な演出があったり、アクションでスローモーションを多用したり、凄惨な殺人事件を題材としながらも過剰なくらいの爽快感がある。

 

もちろん前半まで凄惨な表現をさけているのは意図的だろう。おそらくドゥソクのファンが発生する描写に説得力を与えるためだ。

地下鉄サリン事件後の上祐史浩や、逃亡手記が映画化された市橋達也を思うと、映画で描かれる韓国社会の熱狂は既視感と説得力がある。

そして事件の凄惨な印象をもたらす映像が明らかにされつつ、後半から新たな人物Jが登場。ドゥソクとJは真犯人の立場を争う。論争する両者の主張にはそれぞれ説得力があるし、同時に詐欺師の可能性も捨てきれない。

そしてドゥソクと対立しながらも救出してきたヒョングが、全てを明らかにする……

 

プロローグのさまざまな出来事が伏線として効果をあげ、ドゥソクの正体と動機の説得力は充分ある。最後の失踪事件が全てのポイントとなる謎解きもいい。

いささか題材の重さに比べてアクションの物量がありすぎる感もあったが、とにかく観客を楽しませようとする熱意ともども韓国映画の力を感じる作品ではあった。

*1:ここは復讐を題材にした韓国映画親切なクムジャさん』にも似ている。遺族のひとりが出所する場面で、罪をそそいで潔白になったという意味で豆腐をわたされる場面も同じだ。